王の死

群れ。 王の頓死。 突然だった。 息子が跡を継ぐことになった。 最初の狩り。大失敗だった。 二度目も同じだった。 腹心の部下たちも表情を曇らせた。 ある晩、彼は群れを離れた。一人こっそりと。 うかつだった。 目が覚めたとき、彼は崖下に倒れていた。 …

IT 社長から逃げてきた翁めぐみじゃなかった、?於、ってこれもおきなかよ。

けっきょくわからなかったので、 翁めぐみとさせてもらうたんやけど、 いやあ自分で見てもなんか『いや』ですね。 ・・・・つもりそのアイドルの、、、ね、くびれじゃなくて、もっとあるだろう?大事なことがさ。 例えば? 例えば・・・、おっぱい? 二人向…

次回 Wonder pond でお会いしましょう

心の中は平原があって、平原には無数の池がある。 大きいものや小さいもの、魚が住んでいるようなのもあれば、苔の一片も生えていない寂しいものもある。 石を抱えて歩いていると不意に手の力が抜けて無数の池の内の一つの池に抱えていた石が落ちてしまう。 …

夢見る女は夢見ない女より幸せか ②

「おはようさん」トイレへ向かう途中男が洗面所に立っていた。鼻歌を歌いながら歯を磨き、そして左手一本でネクタイを締めていた。 その姿を見ただけで尿意が一気に不快感に変わった。 「おはよう」そそくさと返事をしてトイレに入って鍵を閉めた。ドア越し…

夢見る女は夢見ない女よりも幸せか ①

肩に触れられたときにはもう嫌いになっていた。 朝、彼は私より10分早く起きる。10分後、手元にある私がセットしたアラームが鳴る。私は、これが鳴るまではいつまで寝ていてもよいのだ、と考えるようにしているから、ときどきその間の10分が何時間にも…

吸野菜鬼

まずおれは煙草を買いにでかけたんだった。5月1日になったばかりのコンビニに着くと、見る気もないのに雑誌のコーナーに足が延びてしまった。だって、まるで拉致監禁されてるみたいに包れて縛られて床に転がされている雑誌にはさ、可能性のオーラ―がゆらゆ…

そうか、そういうことだったのか。風の歌を聴け、はそうだったのか。 #1

サリンジャーの娘の書いた「わが父サリンジャー」にするか、この本にするかでずいぶんと悩んだ。 ふと、その本の下の段にあった「おサルの系譜学」に目が移った。先週まで入口にある<新着コーナー>で埃を被っていたものだった。たしかその時は、一度ペラペ…

ワタナベくんが直子の死を知ってから、落ちていくところ

なぜ、そんなことになっちまったのか。俺にも理解はできなかった。こうもあっさりと首吊り一つで、本をよんだり、映画に行ったり、胃が輝きだすくらい美味しいフランス料理を味わったりだとか、そうしたことができなくなってしまうだなんて。控え目に生えて…

工場員「異人伝」を読んでみて

「十九歳や二十歳で、よほどの天才でもない限り、小説って書けないんだよ。例えば十年以上、肉体労働してるとか、なんだかんだで最低底の人をたくさん見てないと、ちゃんとした小説は書けないよ」 第百三十回の芥川賞(金原ひとみ・綿矢りさ)の受賞に対して…

果てしなく長い10分

ある工員にとって、 通勤電車は激しい苦痛を齎す、 厄災の詰まった玩具箱みたいなものであった。 伴う苦痛の激しさたるや、 僅か10分の間で工員の顔を別人のそれに代えてしまうのである。 額から流れ落ちる夥しい量の汗が冬場にも関わらず工員の肌色のワーク…

勉強する工員

もう一年も前から工員はある資格試験の勉強をしている。 分厚いテキストを2冊買い、工場が主催する勉強会にも参加した。 しかしその資格を工員はまだとれずにいる。工場の仲間は元より、細君にさえ、「いつとる気なのよ」と詰め寄られたりしている。 工員は…

第43話

翌朝目が覚めてみると、レースのカーテンに仕切られたベッドで寝ていた。洗いたての真っ白な枕にしがみつくように寝ていた俺は、こわばる手から少しずつ力を抜き、寝がえりをうってみた。 しかし、その当たり前の行動は成就しない。背中を起こそうとすると@…

第四十二話

せっかく夢うつつなんだから、ここいらでさ、「本気の」文学をしてみてもよいかな、と俺は思う。「本気の」文学とは、留保なしの物語のことで、次の一行で悩まされることのない、流麗な文章を指す。二義的に取らえられうる文章というのは、カックテルであっ…

年末の工員

別にどうということでもないが工場にいっても誰もいないのでしかたがないから部屋で工員は寝転がりながらテレビを見ていると知った顔が目に入って、あれこれはひょっとしたら、などど久しく使っていない脳みそを使ったものだから突発的に強烈な頭痛が襲って…

第三十九話

四角く区切られたビル群の一角。 空まで建物に区切られていて四角いわけで、その空間にくるくると旋廻する大きな翼の鳥は見ようによってはキャンバスの上で規則的に円運動を繰り返してる黒い筆先に見えなくもない。俺は地面に寝転がってそんな光景を見ている…

読点

文章を書いていてよく悩むのが、この読点です。 いまさら文章読本もないですが、川端康成、谷崎純一郎、三島由紀夫、丸谷才一など、名だたる名作家たちが読点の使い方に関して一家言持っていたと記憶しています。 誰がなんと言及したのかくらいは覚えていた…

九分九厘は9・9パーセント?

家のモノが読んでいる「漢字達人」という本が思いのほか面白かった。 要は難読漢字を集めたクイズ形式の書籍なのだが、間違えて覚えていたり、まったく読めないものなども数多くあり、改めて自分の浅学を恥じる結果となった。 一ページ目の最初の問題がタイ…

工場員は考えていた

隣のラインで働いてる仲良し(たぶん)二人組の若者が、食堂にできる長蛇の列で、いつも俺の前に並んでいる。食べ終わるのも同じ頃で、帰りのエレベーターでも大抵は一緒になる。 お互いに存在は確認しているのに、絶対的に話しかけたくないのは、別に深い理…

独飲

本日訳あって外泊。 セカンドハウス(なんて立派なものじゃないですが)の近くで夕食す。 一品一品が小憎い店。といっても、焼き鳥屋さん。 8人座れば満員のカウンターで、紙のおしぼりでは、もちろんない。 えらい寒かったのでいきなり熱燗。 出てきた突き…

5

しばらくするとアカハゲも起きてきた。鬢のところが跳ね上がっていて、その様はオレにひよこを思わせる。 小さい頭にとがった鼻、横に広がっていて血色の好い唇、目は真っ青で、髪は超がつくほど細いブロンド。そんな男が頭の両際の毛を跳ね上げて、白い寝間…

4

飛行機の音ではなかった。 24時間掛けっ放しのエアコンが動き出し、目に見えるほど乾いて汚れた空気が、肺病やみの犬みたいな音を立てて、配風口から吐き出されているだけだった。 合成繊維100%の、カサカサした掛け布団を撥ね退けると、ぼんやりした頭を持…

3

この物語は1999年4月10日に始まり、18日後、つまり4月28日に終わる。

オレとアカハゲが初めて出会ったのは、同じ大学のスウェーデンだかノルウェイだかの金持ちの息子が主催したホームパーティーでだった。 郊外のアパートを一棟まるまる借り切って、フロアの壁を三つもぶち抜いた巨大な部屋には、何かで正体をなくした若者が10…

工場員は躁鬱病にかかっています

月曜日に起きると、もう金曜のよるのことを考えている。 17:45、チャイムが鳴って、各々が手袋や帽子を外して、タオルで首元を拭ったり、煙草に火を点けたりしている。そこに漂う空気は、青い靄がかかっていてどういうわけか人々の心が少し和らいでいたりす…

1

電話は鳴り続けていた。 「Hey, you answer the phone」オレは言った。「It should be James」 プレイステーションで『Jackie Chan's Stuntmaster』をしていたアカハゲはオレの方を振り向き、Fuck you. You do itと言って画面に顔を戻した。 窓から差し込ん…

工員は試しに土日月火と休んでみた

単純労働とはいえ休息は必要だ。 いったんラインから離れてみたものの、目の前の景色と手の感覚はそう簡単に戻らない。 3時間も同じラインに立ちっぱなしだったのだ。 タバコルームの小さくて軋むドアを開けると紫煙の霞、(誇張ではない)の中に知った顔を…

第二十四話

シャワーを浴びていた。 青白い浴室にいると、ジョディー・フォスターの「ブレイブワン」のワンシーンで、殺人を終えた主人公が家に帰ってくるなりシャワーを浴びている。服を着たまま。黒いTシャツとジーンズを脱がないで、栓を開いて、あまつさえ石鹸で洋…

工員は迷う

しまった。寝坊だ。どうしよう。 工場のある駅まで出ると始業まであと20分しかないのに、そば食いたいな、と思ってしまった。 そしてそれを実行してしまうと時間はもう5分しか残されていない。 バスに乗って、10分で着いて、9階まで混みこみのエレベーターで…

二十三話

妻は派遣社員として、 私が勤める会社に、 いつの間にか登録をしていたのである。 そしてどうやら、 それは首尾よく成功し ・・・・ ・・・・――――――― というのは、コネでもない限り、 30過ぎて企業経験のない人間が入れるほど、 ここの人事は軽くない。 やる…

第二十二話

400日ぶりに出社するとセキュリティーゲートで止められたのでございます。 「ちょっとIDをこちらへ」若年寄みたいな雰囲気の青年が、ってそりゃどんな雰囲気の青年なんだ、なんてことは訊かないでいただきたく存じます。実際に私は見たのでございますから。 …