そうか、そういうことだったのか。風の歌を聴け、はそうだったのか。 #1

サリンジャーの娘の書いた「わが父サリンジャー」にするか、この本にするかでずいぶんと悩んだ。
ふと、その本の下の段にあった「おサルの系譜学」に目が移った。先週まで入口にある<新着コーナー>で埃を被っていたものだった。たしかその時は、一度ペラペラとめくってみただけで借りるのはやめようと思ったのだった。何せハードカバーで重いし、副題で「歴史と人種」とあったので、今はまだ読む本じゃないだろう、とろくに中身も読みもせず棚に返してしまったのだ。

出逢いというものは不思議なものである。

もし僕が「そうだ。今日は実用書ばかりではなくて、学術書を読んでみよう。そうだ。ドキュメンタリー映画のようなアプローチで書かれた文学論ならばそれほど退屈することもあるまいし、上手くいけば著者のアプローチの仕方に何らかの問題解決の手がかりが見つけられるかもしれない」と。 そんな風に、書生ぶった考えに駆られさえしなければ、≪世界の文学≫のコーナーのま裏でひっそりと佇んでいる≪文学研究≫の棚の前に来ることも、それから「おサルの系譜学」を借りることもなかった(結果的にいうと、僕はその本を借りてしまった、ハードカバーで重いのに)。