2012-01-01から1年間の記事一覧

51話

男は眼鏡をずらして、私の手渡した原稿を繁々と、閲するように眺めながら「ふんはあ、ほうほう」とか「へかへやむりょむりょ」とかまたは「ぽりーうち、ぽりーうち」とか、20分くらいは意味踏めの放言をしていたかのように思う。そしてそれはその通りだっ…

50話

そうして小説を書くこと半年、一冊の分量の文章を書き上げ私は意気揚々、前途洋々と 鼻歌まじりに飯田橋はS社へと持ち込みを行った。もちろんノーアポでだ。 受付にいた30代前半の女性は原稿用紙の束をヒモでくくっただけの私の姿をみて 黙って指をフロア…

工場員は工場をやめて、報道官になった

仕事を辞めるということは、それまでやってきた生活を変えるということです。 通勤場所が変われば使う交通経路だって変わるし、つきあう人間も食事だって変わる。 勤務先によってはスーツ着用を義務づけられていたりするし、金髪にモヒカンだって何も いわれ…

自由律俳句

気がつくと工場員はいつもどこかで自由律俳句を読んでいる自分に気がついた。 放哉や山頭火などの作品を読み散らかした後に必定、大橋裸木にたどり着いた。 そこまでの時間約3日。三ヶ月の余命という都合を鑑みても、まあ結構早いほうだと思う。 それはつま…

余命三ヶ月の工場員

余命三ヶ月の工場員は色々な余命三ヶ月を考えてみようと思った。 なぜならば、余命三ヶ月というのは世界一周するにはちょっと短いし、 何もしないにしてはちょっと長過ぎるからだ。 病室のベッドの上で天井を眺めていた工場員は 手始めに余命三ヶ月五十音を…

単なる思いつきを発展させられない

そもそも単なる思いつきなんか発展させる必要すらない。 何かを作りたい。 そんな欲求を抱えている工場員は思いつくままに絵を描いたり、 文章を書いたり、音楽を作ったりと世の中の大半の人達が 一度は手を汚すあろうクリエイションのまねごとはしてみた。 …

49話

弟がその白い粉を置いて帰ってから数分後、私は恐る恐るその小指サイズほどの太さのケースを鼻にあてて、くん、と吸引してみた。少しだけ鼻腔が痛んだがその瞬間、目の前の画像が音を立てて揺れた。ずきゅん!という効果音が聞こえるほどはっきりと。 私は台…

飯田橋で工場員

LaptopとはいったものでMacBook Proという名前の冠されている銀色の平べったい物体を膝の上に乗せて、右手にはタバコ、左手にはキリン端麗グリーンラベル(500ml)を持っているということは、両の手が塞がっているのだからこんな風に文章を書くことはできな…

渋谷で工場員

Laptopとはいったもので直訳すると「膝の上」という。今PCを膝の上にのせてこれを書いている。書いているのは工場員だ。どこにでもある、なんということのない、全く普通のごくごく一般的な意味での工場員。名前はまだない。 工場員は今日渋谷に行ってきた。…