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飛行機の音ではなかった。
24時間掛けっ放しのエアコンが動き出し、目に見えるほど乾いて汚れた空気が、肺病やみの犬みたいな音を立てて、配風口から吐き出されているだけだった。
合成繊維100%の、カサカサした掛け布団を撥ね退けると、ぼんやりした頭を持ち上げた。
およそ家具と呼べるようなものは、削りだして作ったばかりの勉強机と椅子だけだった。バックパック、スーツケース、空のペットボトルやゴミの詰まったビニール袋、世界地図や文庫本、CDや灰皿などが、ワックスを塗りすぎてベタベタした板間の上を埋め尽くしていて、優に10畳はある部屋がひどく手狭に映る。
寝そべってもまったく形の変わらないスプリングを敷き詰めてあるベッドから足をおろして、俺は窓辺に近寄った。
薄い黄色の布をまくって、観音開きの窓を開けると、いつもの景色がそこにはある。黄土色のコンクリートの地肌がそのままになっている4階建ての建物が見渡す限り並んでいて、階下には申し分のない広さの並木通りがあって、日向にはもうすでに何人かの老人たちが椅子を持ち出し、怪訝な顔をして太陽を見詰めている。