彼女の名は福ちゃんといった。
命名規則上は暗い顔して外を歩けない。
考えてみるに名前というのは、産まれてすぐに与えられる他者からの贈り物であり呪いである。
何と言っても解ける呪いというところが最も嫌らしい。
彼女はその"笑顔でいなければならない"呪いに囚われていることに明示的に気が付いてしまった。
ある春のことだ。
そして著しく体調を崩して、新卒で入社した会社をしくじってしまった。
鬱による退職。
そして、数ヶ月の休息ののちリハビリ程度に始めたアルバイト先で日本社会の隘路であるしんさんに出会ったのだ。