2005-04-01から1ヶ月間の記事一覧

第七章 轟と羊の関係

賢明な読者にとって、この部分は飛ばしてくれて構わない文章だ。先へ進んでほしい。 人称と視点の距離観がどうしてチョコチョコ変わるのか? では、書き手の位置を説明する。 ボクは27歳の羊、すなわち轟と呼ばれる成年の深層心理だ。轟は羊で、羊は轟であり…

the eighth story ~夕刊セックス~

「夕刊セックス」 轟青年が真に青年に目覚めたのは13歳の秋だった。 塾の帰り道、どぶの中に落ちているエロ本の束を拾った時、彼の中で確かに何かが変わった。それは、静かだが確実に轟青年の中に巣食い始めた。そして文字通り、彼の魂にしゃぶりついた。そ…

第六章 外伝 ~ 概ね珈琲

5月の朝のことだ。 羊の父は、ようやく訪れた春の朝日で目を覚ました。隣ではひどく疲れた様子で妻が静かな鼾をかいている。羊の父は静かにベッドから降りると、忍び足で玄関へ向かった。 分厚い朝刊をポストから引きずり出して、玄関口に腰掛ける。そして新…

第六章 羊の両親の分断

日本旅行管理協会に属する全国1万2千軒の旅館経営者達にアンケートを取った結果、彼らのうちの87パーセントは「朝」とは午前3時から10時までを指す、ということが2005年5月の朝日新聞の調査で分かった。これは日本旅行管理協会の発足が、伊豆の元漁師が経営…

the sixth story ~差詰モアイ~

「君、ローラースケートに乗ったまま、ユンケルを飲んだことあるかい?」 僕は瞬間、無表情を顔面一杯に覆いつくせずに、眼が宙に泳いで、ケッという顔をしてしまった。 相手はレジにいる店員の僕に目もくれず、伏せ目で笑って言った。「君、あけてくれるか…

第五章 Lost virgin

「それでそのスウェーデン人は、高官に種を渡したの?」 女の子は煙草を灰皿において、髪の毛を一括りにすると手首に巻いてあったバンドで結びながら首を振る。「もし私が彼女だったなら、渡さなかったと思うわ」 「だろうね。唯一の形見だもの」羊は最もだ…

Bridge 2 「静けさ種」

「静けさ種」については、とある在日スウェーデン女性のHPに詳しい。 これは実話だ。 彼女が日本に住み着いてもう20年の月日が経つ。現在、彼女は重度のアルコール依存症を抱えながら、日本政府の生活保護で生活している。 20代前半の頃、1970年代の話だが、…

第四章 ドムドムバーガー

マクドナルドがない羊の町で唯一の憩いの場が、ドムドムバーガーだった。 駅の前にある小さなハンバーガーショップで、15時過ぎくらいになると高校生でいっぱいになる。男の殆どは工業高校の生徒で、その中でもファッションにうるさい化粧品屋の息子は毎日そ…

羊の町の地図 「拡張H」

帝国書院発刊の「新詳高等社会科地図」十五訂版を見ていただくと、巻末に都市の構成分布図が載っている。資料によれば、羊の住む町は「拡張H」型に分類され、それは東南アジアの人口500人以上1000人以下の村によく見られる形態のようだ。 「拡張H」型とは -…

第三章 雨漏り後

簡易的に取り付けた空き缶で急場をしのいだが、羊はまだベッドの上を横転していた。この雨漏りが何故だか重要な意味を持つのではないかと心配していたのだ。 「雨漏り」 羊は言葉にしてみる。 突然だが、町の話をしなくてはならない。 今、羊が自分の住んで…

Bridge 1 「奏でる扉」

1999年版 別冊Rockin' on あの伝説のアーティスト達は今? 23ページ 久しぶりに緊張を必要とする大物との接見だ。ミック・ジャガーと初めて会った時の緊張を筆者はいつまでも忘れられない。しかし、それ以上の緊張を「松原真」との接見には感じさせるものが…

第二章 雨漏り前

雨が降っていた。 霧雨だった。窓から出した手を引っ込めて、羊はその湿り気を確認する。机の上に本を置く。その側には壊れた盗聴器がある。羊はあらためてその機械に触れてみる。 と、その時だ。 ポタ ポタ 羊の視線の端に、水雫がたまっていた。それは盗聴…

the second story ~クリスタル睡眠~

私は仕事上、その宝石店の前を通ることが多かった。 ショーウィンドウに直径30cmのクリスタルが飾ってある以外なんてことはない、平凡な宝石屋だった。金無垢の台座の上に、ぴたりと揺るぎなく座っているクリスタルを発見した私は、心が弾むのを抑えられな…

ようこそいらっしゃいました!

熱烈な村上春樹フォロワーである私ことボク(29歳)、が9年前、町田康に出会って 「俺もやってみよう」くらいで始めた軟弱サイトです。 【村上春樹の味】 村上さんは基本的には(自分は)長編小説作家なんだ、といろいろなところで語っていますが、実に多く…

第一章 盗聴器

羊は本を閉じた。 そして布団から起き上がると、蛍光灯のヒモを2回引いた。薄暗くなった部屋が2度、3度光り、人工的な白が部屋を覆う。窓辺に立った羊は、空を眺めた。 しかし次の瞬間、恐ろしい形相で机の引き出しを開けると、ドライバーを取り出した。そし…

the first story ~生きる女~

目覚ましが鳴る。 白く長い指をした手が時計に被さり、電子音は止んだ。ふたたび静寂が部屋を支配する。 部屋は霞みかかったように薄暗く、青白い。やおら白い掛け布団が持ち上がり、女が起き上がるのが見える。肩より長く伸びた髪は、僅かに乱れている。女…

50個集まりました!

皆様のご協力を持ちまして、50すべての言葉が集まりました。 この場を借りて感謝の意を表したいと思います。 ありがとうございました! 第一話は「生きる女」です。ファン登録・コメントお願いします! それでは羊の図書館をご堪能下さい。

王様の耳はロバ的 穴

こんにちは。 ここは今まで集まったみなさんの「キーワード」を集めた“穴”です。コメント欄に入れていただいた「キーワード」が50個集まった時点から、毎回2つをピックアップして小説を書きます。「今日の一言」でもなんでも良いので、みなさん、ご協力お願…

羊の図書館 序章

序章 まずは羊の話からしよう。中学3年生の健康な羊だ。 羊は小さな田舎町で生まれ、現在、15歳までそこで暮らしている。 イトーヨーカドーがないのはもちろん、マルイや西武、ユニーだってコンビニエンスストアすら一軒もないような寂れた町に父と母と妹の4…

何でもよいので一言残してください。

はじめまして。羊です。 さて、何をしようかというと、皆さんが残してくれた単語(例えば、“軽軽しい”、“猿”、“寝る” など)を50集め、集まった時点で中から二つの言葉を選び、それをテーマに25本、羊の図書館に並ぶ文章を書こうと考えています。一人ごっつ…