工員は迷う

しまった。寝坊だ。どうしよう。
工場のある駅まで出ると始業まであと20分しかないのに、そば食いたいな、と思ってしまった。
そしてそれを実行してしまうと時間はもう5分しか残されていない。
バスに乗って、10分で着いて、9階まで混みこみのエレベーターで行って、扉をくぐってタイムカードを押す。必要な時間は最低20分だった。この時点で遅刻は確定してしまった。
おっかなびっくりバス停までたどりつくと、次のバスは始業時刻を5分過ぎたところで来るという。いま、時計は始業5分前を指している。
私には二つの選択肢があった。
ひとつは、己の欲を満たすために遅刻してはシャレにならん、いつもよりも高い金を払ってタクシーで一分でも早く行こう。
もうひとつは、どーせ遅刻なんやから5分の遅刻も10分も遅刻も変わらんやろ。会社に電話して、15分遅れます、って言えばええやんか。

の二種類だった。

工員は迷った末、前者を選んで、いつもより500円余分に払った。タイムカードを打刻して、でた数字は0905。結局遅刻には変わりないのだが、工員はいつもより頑張って仕事し、帰る時には遅刻してよかった、ということすら自分に認めているのだ。