2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

第二十七章

「1000万分の100の確率ですね」医者は母にそう伝えらしい。 「あんた1000万分の100の確率で生き返ったのよ。1000万分の100倍頑張って生きないと、これからは」と大騒ぎする母の言葉を本当に解したのは、羊の死後78時間を少し過ぎた辺りからだった。 羊は復活…

the 20 story ~ エッチ残像 ~

ボクは――轟――よく夢を見る。 それは不謹慎なくらい淫らで、不自然なくらい外国が多く、不可思議なくらい中世的な、夢だ。 毎晩、ボクはそんな夢を見る。淫らで外国的で中世的な。 或晩、ボクはインドで両性具有の女達と3Pの真っ最中だった。 A(便宜的にこう…

第二十六章

ノラ犬は去り、羊は失禁し、暗闇はよく目を凝らしてみると灰色になっていた。 羊は地面に仰向けに寝転がり、空(?)を眺めていた。 ふと、空が微かだが動いていることを羊は発見する。空が動いている。 空は、時に縦に、時に横に、時に斜めに、動いていた。…

第二十五章

右手を地面の型にしっかり合わせてみる。 それは寸分違わず、羊の右手を一致している。 僕の右手と一致している? どうして? でも間違いない、これは僕の右手だ。 僕の右手。 そんな歌があった。 「僕の右手を知りませんか?」 ブルーハーツだ。 「行方不明…

the 19th story~ 「些か」「砂」~

コードネーム 「些か」 コードネーム 「砂」 「些かぁ」と砂は言った。 「なんだ砂?」些かは応える。 「この名前なんだけど、些かってやつな。俺には読めるけど、中卒じゃ読めないよ、高卒だって怪しいぜ」砂は靴を磨きながら言う。 「別にいいんだよ」と些…

the 18th story ~ 複雑に緊迫した ~

ボクには恋人がいた。 かつて、いた。 今は他人だ。 でもかつてはいたのだ。確かに、いたのだ。 ではどうしてかつてはいたのに、今はいないのか。 ボク達は別れたからだ。 不思議なものだ。 別れると、もう付き合っていないのだ。もうその時点から、恋人でな…

第二十四章

もうどれくらい歩いただろう。 24時間は経過しただろうか。 羊は、暗闇で音も無い平坦な道を、歩き続けている。 思い思いの方向へ歩いている。右へ左へ、東へ西へ。 羊の孤独は羊を包み込み、やがて羊自身を飲み込もうとして やっぱり立ち止まり、闇の中に戻…

the 17th story ~とめどなく 夢を~

コーヒーを入れる。 タバコに火をつける。 いすに座る。 パソコンを立ち上げる。 眼鏡を掛ける。 一口コーヒーを啜り、一口タバコを吸う。煙を吐く。 溜息を付く。 思い出を思う。 本を開く。活字を拾う。タバコを吸う。コーヒーを飲む。 ノック。ノック。 …

第二十三章

漆黒の闇は少しずつだが、羊を蝕んでいった。 白くふわふわとした羊毛は、墨でも落としたようにじわりと暗闇に染まっていった。 「怖い」羊は声に出してみる。「誰か助けてくれ!」 しかし羊の声は響かない。恐ろしく響かない。 しばらくして羊は立ち上がっ…

the 16th story ~勇敢に 確実に~

エリック・クラプトンが叫びだす。 なんてことだ。 コンサート会場はざわめいた。久々の日本公演だってのに、ボーカルの暴走。 ファンは慌てふためき、メンバーは楽器を止めて唖然とし、プロモーターは携帯電話を取り出しどこかに懸命に電話を掛けていた。カ…

第二十二章

羊は暗闇の中にいた。 いたのか、あったのか、判然としない。 暗闇の中にあった、という方が適切かもしれない。 羊は暗闇の中にあった。 うん、この方が適切だ。アプロプリエイト。 記憶は不鮮明で羊を動揺させた。 ところで暗闇で目を覚ましたことがある人…

the 15th story ~カボチャポイント・月光浴~

サーフィン この音に取り付かれたのが27歳の冬だった。 サカモトという先輩がオーストラリア放浪の旅から帰ってきたのだ。カレの目的はサーフィン。 サカモトは言う。 「波を感じるんだ」 もちろん、その意味はボクには伝わらない。 「波を読むんだ」 波を読…

第二十一章

その日、羊の葬式が羊の故郷で営まれた。 緑屋に出入りしていて羊を知るものが多かったことから、鄙びた旅館にはかつて無い数の客が泊まり、数日間、商店街は不謹慎なほどにぎわった。 式中、羊の父は涙を見せず、母は号泣していた。 羊の数少ない学校の友人…

第二十章

10月半ば。 羊は孤独だった。 夜中に布団の中で突然目覚め、水道から水を飲み、窓を開ける。 外はシトシトとした雨が降っていた。 わずか数ヶ月だが、この寮に来てから羊は恐ろしいほど多くのものを失っていることに気が付いた。 次の朝、眠い目を擦って、パ…