果てしなく長い10分

ある工員にとって、
通勤電車は激しい苦痛を齎す、
厄災の詰まった玩具箱みたいなものであった。


伴う苦痛の激しさたるや、
僅か10分の間で工員の顔を別人のそれに代えてしまうのである。
額から流れ落ちる夥しい量の汗が冬場にも関わらず工員の肌色のワークシャツをしとど濡らしてしまう。



冬なのにさ。たかだか10分電車にのるくらいで?


工員はかなり本気で朝を恐れている。

毎日朝が本当に本当に怖い。

働けなくなることで失うもの。
そのことによって起きるだろう障害、
貧困、別離、金に絡んだ不幸、その他もろもろの厄災が一列に並んで飛こんでくる。