二十三話

 妻は派遣社員として、 私が勤める会社に、 いつの間にか登録をしていたのである。
 そしてどうやら、 それは首尾よく成功し ・・・・

・・・・――――――― というのは、コネでもない限り、 30過ぎて企業経験のない人間が入れるほど、 ここの人事は軽くない。 やる気と努力と根性の三位一体がなくてはどうにもならないのだけれど、 一番無難な三位一体の「使い道」は勉学。 
エクセルとワード、 英検2級、 簿記2級があれば、ほぼ確実に、日本に点在する会社の門をくぐることができることになる。

 実際そうすると金も時間も掛かるから、 もうちょっと経済効率がいい方がいんだけどな~、という妻の場合は、 自分に化粧を施したのである。 自分に磨きをかけて、 「セクシー」か信用に足る存在(えてしてセクシーな人は自分の線をきちんと持っているからセクシーなんだと思うが) だという印象を与える訓練を、一人黙々と鏡に向かいてした。 そうして面接に臨む時、 決して自分の美 (自信) を疑わなかった。 仕事が出来る出来ないなんてことは面接会場のトイレに置いていおいて、さあ面接は始まった。 

実際の話、妻はかなりのハンディを背負ってスタートしていた。挨拶の仕方が非常に重要だからだ。  
結論から言えば「 相手の話をきちんと理解するまで、口を開かないこと」これが面接の極意である。
重箱の隅をつつくような質問はそれほど単純には答えがでないのが当たり前なので、適当に交わす。たとえば、「普段はどんな格好されてます?」と訊かれたとしたら、楽な格好してますね、くらいでいいのだ。 なぜならば、普段着る服のポリシーなんて訊かれたとしても、2,3時間は割いて話さなければ正確な像は理解させられないだろうし(話したところで無理かもしれないけれど)、とにかく、そういう瑣末なこと以外は、相手の話を理解できるまで訊く。 あと自分の言葉に落とし込むというのも重要だけど、それは上級テクなので本校ではファーストレベルの方々には推奨しない。 


とまあ、暫時、私の内に閃いたのは、あの夜の出来事であった。

まだ妻が渋谷で歌っていた頃から、熱狂的なファンの一群。中に「非常に粗暴」に聴く「態度の悪い感じの」女三人組がいた。年のころ14,5才だろうか。
ジェフ・べックが大好きだったギタリストと妻は組んでツーピースのバンドをしていた。