2010-01-01から1年間の記事一覧

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地表には音楽が溢れすぎていている。情報も多すぎる。 目の前にそびえたつペンシル型のビルにもそこかしこに広告が貼ってあり、そのどれも商品を直接売るのではなく、つまりリンゴ屋さんが広告主で、リンゴのけってくれ、と頼んだって、本当にそれがその思い…

工場員は自分の目で物を見始めた

結句、自分の瞳で物を見るということは、様々なバイアスは放っておいて、自分、ここにいる自分を中心に見て、感じることである。 大したことではないけれど、意外とやってみると難しいことに気がつく。 というのは、意外と人は自分の瞳で物を見ていないから…

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「ええ、結論からいいますと」CIA長官はゆっくりとカンペに目を通すと、もう一度カメラの方へ向き直った。レンズの向こう側では世界がその言葉を待っていた。 「あと7年後に地球は滅びます」 その後の世界がどうなったかは想像に難くない。意外といままでど…

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その兆候をいち早く察知したのは、NASAの観測隊だった。厳密にはNASAにそんな隊は存在しておらず、「我々にはチームプレイなどという都合のいい言い訳は存在せん。 あるとすればスタンドプレイから生じるチームワークだけだ。」という荒巻課長の言葉通り、彼ら…

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「被告人、布原くん」 ええー、って思った。マジかよ、って思った。 (笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑) 今から俺は、俺がぶっ殺されるまでの話をしようと思うんだけど、 それってどっかおかしい? 俺がいましゃべってるってことは、俺が…

王の死

群れ。 王の頓死。 突然だった。 息子が跡を継ぐことになった。 最初の狩り。大失敗だった。 二度目も同じだった。 腹心の部下たちも表情を曇らせた。 ある晩、彼は群れを離れた。一人こっそりと。 うかつだった。 目が覚めたとき、彼は崖下に倒れていた。 …

IT 社長から逃げてきた翁めぐみじゃなかった、?於、ってこれもおきなかよ。

けっきょくわからなかったので、 翁めぐみとさせてもらうたんやけど、 いやあ自分で見てもなんか『いや』ですね。 ・・・・つもりそのアイドルの、、、ね、くびれじゃなくて、もっとあるだろう?大事なことがさ。 例えば? 例えば・・・、おっぱい? 二人向…

次回 Wonder pond でお会いしましょう

心の中は平原があって、平原には無数の池がある。 大きいものや小さいもの、魚が住んでいるようなのもあれば、苔の一片も生えていない寂しいものもある。 石を抱えて歩いていると不意に手の力が抜けて無数の池の内の一つの池に抱えていた石が落ちてしまう。 …

夢見る女は夢見ない女より幸せか ②

「おはようさん」トイレへ向かう途中男が洗面所に立っていた。鼻歌を歌いながら歯を磨き、そして左手一本でネクタイを締めていた。 その姿を見ただけで尿意が一気に不快感に変わった。 「おはよう」そそくさと返事をしてトイレに入って鍵を閉めた。ドア越し…

夢見る女は夢見ない女よりも幸せか ①

肩に触れられたときにはもう嫌いになっていた。 朝、彼は私より10分早く起きる。10分後、手元にある私がセットしたアラームが鳴る。私は、これが鳴るまではいつまで寝ていてもよいのだ、と考えるようにしているから、ときどきその間の10分が何時間にも…

吸野菜鬼

まずおれは煙草を買いにでかけたんだった。5月1日になったばかりのコンビニに着くと、見る気もないのに雑誌のコーナーに足が延びてしまった。だって、まるで拉致監禁されてるみたいに包れて縛られて床に転がされている雑誌にはさ、可能性のオーラ―がゆらゆ…

そうか、そういうことだったのか。風の歌を聴け、はそうだったのか。 #1

サリンジャーの娘の書いた「わが父サリンジャー」にするか、この本にするかでずいぶんと悩んだ。 ふと、その本の下の段にあった「おサルの系譜学」に目が移った。先週まで入口にある<新着コーナー>で埃を被っていたものだった。たしかその時は、一度ペラペ…

ワタナベくんが直子の死を知ってから、落ちていくところ

なぜ、そんなことになっちまったのか。俺にも理解はできなかった。こうもあっさりと首吊り一つで、本をよんだり、映画に行ったり、胃が輝きだすくらい美味しいフランス料理を味わったりだとか、そうしたことができなくなってしまうだなんて。控え目に生えて…

工場員「異人伝」を読んでみて

「十九歳や二十歳で、よほどの天才でもない限り、小説って書けないんだよ。例えば十年以上、肉体労働してるとか、なんだかんだで最低底の人をたくさん見てないと、ちゃんとした小説は書けないよ」 第百三十回の芥川賞(金原ひとみ・綿矢りさ)の受賞に対して…

果てしなく長い10分

ある工員にとって、 通勤電車は激しい苦痛を齎す、 厄災の詰まった玩具箱みたいなものであった。 伴う苦痛の激しさたるや、 僅か10分の間で工員の顔を別人のそれに代えてしまうのである。 額から流れ落ちる夥しい量の汗が冬場にも関わらず工員の肌色のワーク…

勉強する工員

もう一年も前から工員はある資格試験の勉強をしている。 分厚いテキストを2冊買い、工場が主催する勉強会にも参加した。 しかしその資格を工員はまだとれずにいる。工場の仲間は元より、細君にさえ、「いつとる気なのよ」と詰め寄られたりしている。 工員は…

第43話

翌朝目が覚めてみると、レースのカーテンに仕切られたベッドで寝ていた。洗いたての真っ白な枕にしがみつくように寝ていた俺は、こわばる手から少しずつ力を抜き、寝がえりをうってみた。 しかし、その当たり前の行動は成就しない。背中を起こそうとすると@…

第四十二話

せっかく夢うつつなんだから、ここいらでさ、「本気の」文学をしてみてもよいかな、と俺は思う。「本気の」文学とは、留保なしの物語のことで、次の一行で悩まされることのない、流麗な文章を指す。二義的に取らえられうる文章というのは、カックテルであっ…