#ノンフィクション、エッセイ

12話

「どんな人?」2007年春。 「天使みたいな人」 俺としんさんは緑の家の俺の部屋にいる。 しんさんはそこで俺に恋の話をしている。 俺もしんさんもどうしようもないクズだから、それはそれは仕事を変わった。 倉庫整理、インターネット回線の電話営業、出…

11話

パーティーが終わってから緑の家ではたくさんのことがあった。 大ちゃんの彼女の妊娠が発覚した。 真に彼女ができた。 操に彼氏ができた。 春ちゃんが激しいうつ病状態になった。 洋平が大学時代からの女と別れた。 しんさんも、説明した通り、一人になった…

10話

2005年11月18日 俺たち、というのは緑の家にすむメンバー全員は、下北沢にいた。 下北沢というのは緑の家があった練馬区からみれば、極地、彼岸、最の果て。しかしカラー的には、完全に同系ということになるので、会場につく頃には町のあちこちにいるアング…

9話

しんさんが金を借りにきた翌週から俺は新しい職場で働くことになった。給与はそれまでの3倍ほどになった。それまでが時給900円なんだからたいした金額ではないが、それにしたってそれまでの3倍というのは逆にその程度の収入の人間にショックを与えるに…

8話

土曜日の朝、俺の部屋の扉がノックされた。 「誰?」前日も遅くまで酒を飲んでいたから少々不機嫌。我ながら声が尖っている。 「俺。しんすけ」昨晩、たっぷりと部屋でグリーンラベルをご馳走になっていたので開けないわけにはいかず這いずるように起き上が…

7話

少し俺の話も。 時は、2004年4月。 六本木ヒルズがオープンしてちょうど1年を迎えた月。 俺はオープンから1年勤めたその不夜城のテナントのひとつである中華料理屋を辞めて、京橋にある商社で働くことになった。 商社といっても社員は社長と俺を含めて4人、…

5話

引越しが完了するのを見届けてからしんさんが暮らすことになる、211号室に遊びに行った。 「おつかれ~」グリーンラベルの500ML缶を3本もって部屋をノックすると、大ちゃんが顔を出した。 告白すると俺は彼の笑顔に弱かった。なんなら子供をひき逃げしたと告…

4話

たしか、しんさんが俺が住んでいた「緑の家」にやってきたのは夏の終わりごろだった。 たしか、ひどく暑かった日の夕方で、夕立が去ったあとに、管理人の長谷川が軽トラで帰ってくるのが、眼下に見えた。助手席から降りてきたのがしんさんだった。丸刈りで、…

2話

僕らは全く自由に不自由を謳歌していた。 いや、ことによると全く不自由な自由を謳歌していたのかもしれない。 それはわからない。 ここに住む誰もが非正規雇用の労働者で、介護をしたり、清掃したり、ウェブショップでガラクタにキャッチコピーをつけて売っ…

1話

「何の感情も無いとは言え、正直なところ、あの人に似た人を街で見かけると怖くなったり、駅の浮浪者の中混ざってるんじゃないかと無意識に探してしまったり、知らず知らず彼の存在に怯えてしまってたのですよね。 だからこそHさんにこの話を聞いたときハッ…

5

しばらくするとアカハゲも起きてきた。鬢のところが跳ね上がっていて、その様はオレにひよこを思わせる。 小さい頭にとがった鼻、横に広がっていて血色の好い唇、目は真っ青で、髪は超がつくほど細いブロンド。そんな男が頭の両際の毛を跳ね上げて、白い寝間…

3

この物語は1999年4月10日に始まり、18日後、つまり4月28日に終わる。

オレとアカハゲが初めて出会ったのは、同じ大学のスウェーデンだかノルウェイだかの金持ちの息子が主催したホームパーティーでだった。 郊外のアパートを一棟まるまる借り切って、フロアの壁を三つもぶち抜いた巨大な部屋には、何かで正体をなくした若者が10…

1

電話は鳴り続けていた。 「Hey, you answer the phone」オレは言った。「It should be James」 プレイステーションで『Jackie Chan's Stuntmaster』をしていたアカハゲはオレの方を振り向き、Fuck you. You do itと言って画面に顔を戻した。 窓から差し込ん…