2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

第二十四話

シャワーを浴びていた。 青白い浴室にいると、ジョディー・フォスターの「ブレイブワン」のワンシーンで、殺人を終えた主人公が家に帰ってくるなりシャワーを浴びている。服を着たまま。黒いTシャツとジーンズを脱がないで、栓を開いて、あまつさえ石鹸で洋…

工員は迷う

しまった。寝坊だ。どうしよう。 工場のある駅まで出ると始業まであと20分しかないのに、そば食いたいな、と思ってしまった。 そしてそれを実行してしまうと時間はもう5分しか残されていない。 バスに乗って、10分で着いて、9階まで混みこみのエレベーターで…

二十三話

妻は派遣社員として、 私が勤める会社に、 いつの間にか登録をしていたのである。 そしてどうやら、 それは首尾よく成功し ・・・・ ・・・・――――――― というのは、コネでもない限り、 30過ぎて企業経験のない人間が入れるほど、 ここの人事は軽くない。 やる…

第二十二話

400日ぶりに出社するとセキュリティーゲートで止められたのでございます。 「ちょっとIDをこちらへ」若年寄みたいな雰囲気の青年が、ってそりゃどんな雰囲気の青年なんだ、なんてことは訊かないでいただきたく存じます。実際に私は見たのでございますから。 …

第二十二話

だ、らんだんだだあ~。 だ、らんだんだだあ~。 ほー! 妻は、家でカラオケを歌っていた。 私は、冷蔵庫まで行き、荷物をその前に置いて、久し振りに冷蔵庫を開けると、メロン、桃、セロリ、生ハム、チーズやソシソンとかに交じって、カツオ、いくら、ウニ…

どこまで行ったら気が済むのだろう

去年、ユダヤ系投資銀行を”卒業”した私は、広尾にあるお気に入りにレストランの近くに事務所を構えた。青色のオウムを受付に据え付けて、籠の脇に棕櫚の木を二本おいて、窓ガラスは知り合いの職人に頼んでステンドグラスに代えてもらった。 部屋の真ん中には…

快適な時間なんて訪れた試しがない

目が覚めると、携帯電話の電子音が枕の裏から、鼓膜を直接刺激するみたいに、ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピ、っていつまでやらすねん。 とにかく、目が覚めた。 「もしもし」時計を見ると5時を過ぎていた。 「そろそろ起きろよ。あの日だぜ」ユニョは言った…

工員は息を抜く

午前中の仕事が終わると、油と埃が入り混じりオレンジ色になっている手を洗う。 地下一階にある食堂のいつもの席に座り、何に従い従うべきか考えていた。 「金か、それとも人間か」 またいつもの問答だった。 チャイムが鳴り、午後が始まった。

第二十一話

そうして妻がいなくなってから、400日が経った。 結局、妻は捕まらなかった。 しかし努力だけは惜しまなかった。 私は微かに残っている「努力」と「根性」を、文字通り、振り絞って彼女を探してはみたのだ。 まず私は北海道に飛んだ。 それから、タイに行っ…

「仕事柄、色々な国の人間と知り合う」 大親父は言った。 大親父は「貿易商人」という華僑系企業の重役を任されていて、当人に言わせれば、仕事柄、色々な国人々と知り合った、ということだ。 「我々は、なんでも送るし、なんでも受け取る。どこのどんなもの…

あったかいやつ

ある月曜日。 私は、長年のフリーター生活にあきらめをつけて、とある企業に就職を果たした。 新しい銀行口座をつくり、社会保険にも加入し、長く滞納していた住民税を払い始めた。 その会社の私が勤める部では新しく事業部長に就任した「鳥越」という男が辣…

健康を害した彼女

ありふれていると言えばありふれているし敢えて書くまでもないかな、と思いながらも無視し続けることが難しいのが、彼女の体調不良についての考察だ。そのことで心を痛めているフェミニストのなんと多いことか!頭痛や腹痛はもとより、疲れた、足痛い、眠い…

買い物

コンピューターの画面の前でうなっている。 私の姿しかオフィスにはなくなってしまった。もう23時を回ったのだから当然だ。 私は煙草の箱を取り出すと一本に火をつけて宙に煙を吐く。禁煙のオフィスで吸うタバコ、また格別なりけりかりこり、きれかれこお、…