2005-11-01から1ヶ月間の記事一覧

第十二話 そしてまた豊作へ

「こんばんは もっと星がきれいに見えたらいいのに・・・」 こんなメールを送られても、困るだろう。なんて返すのが正解なんだろう・・・? ボクは考える。 ベッドの上で煙草を吸いながら、この間撮った映画を見直してみる。 そして次の構想を練る。 主人公…

第十一話 pocco a pocco

ハイケイ お元気ですか? ボクは至って元気です。 なんというか、最近歳を取ったなって感じることが多々ありますけど。 でも元気です。 そちらは幸せにやっていますか? 君が結婚したと聞いて、正直とても驚きました。でも人から聞かされなくて良かったと思…

第十話 彼女との出会い 2

それも関係あるだろうね。うん、すごい関係あると思うね。 オレは彼女に紹興酒の温め方を教える。彼女はオレの動作のひとつひとつをじいっと見てんだ。制服のボタンを左手でいじりながら、右手でオレの言っていることをメモしたりしながら。そしてそのあいだ…

第十話 彼女との出会い 1

オレはヒロの部屋で珈琲を飲み、煙草を吸いながら、彼にこの話をしている。 オレはこんな風に話す。 店長の海野がその野暮な女をバックルームで紹介したのは、土曜日のランチ前のことだ。 こんな野暮な女を見るのは久しぶりだ。でもその女は透き通った瞳をし…

第九話 LOVE without SEX

ボクは彼女と、文字通り、運命的に出逢った。 25歳のことだった。 ちょうどその年六本木ヒルズが出来て、東京は一時的に活況に沸いているように見えた。吐く息がうっすら白い、3月初旬。ボクはあたかもその習性からネオン近づいていってしまう蛾のように、異…

第八話 セックスフレンド

ちょっとわき道に逸れますが、 そんな訳でボクにはセックスフレンドが必須でした。 安心してセックスできる相手が、ボクの安定には欠かせなかったのです。 10年もの間、ボクには変わらないセックスフレンドがいるんです。 まるで年寄りみたいですね。10年間…

第七話 ガールフレンド

■ 私は慢性的なインポテンツである。 ――― ボクが初めて女性と肌を合わせたのは14歳の時のことでした。 同い年の女の子と気の向くままに性欲の追及できたのです。 振り返ってみるにボクの異性との撞着はひどい種類のもので それはもう衝動と名付けるに相応し…

第六話 発病中

母「いや、何か話せって急に言われても・・・」 僕「いいから、何でもいいから話をしてくれ!頼む。じゃないとオレ、死んじゃうよ、オレ、死んじゃうよ」訳のわからない畳み掛けに母は戸惑う。 母「・・・・、そうじゃあ・・」 僕「何?なに?ナニ?」 母「…

第五話 10分間

発病した後どうしたかって? 走りましたね。池袋の街を携帯で誰かを呼び出し続け意味不明の言葉を連続して切られ切られ切られ走り走り走り、やっと「パニ障」について詳しく知っている友人に繋がり、彼の指導で水を買い、人気のないビルの隙間へと身を潜めま…

第四話 初めての発病

出来ることならば、しりの穴の中に隠しておきたい。 それほどの秘密。Lost Virgine。初体験。 って、最近はなんですか。あの、カミングアウトって言うんですか。あれにはまってますよね。 じゃあ、自分もしようということで、しましょう。 初めて発病したの…

第四話 パニ障とその症状and TPO

ボクの場合、それは「乗り物」でトイレがないものに5分以上乗ることで発症する。正確に言うならば、5分以上乗ると分かっていて、更にそれにどうしても乗らなくてはならない、という時に発症します。 トレイがあればいいんです。だから新幹線とかは大丈夫。 …

第三話 朝のパニック障害

8時22分。もちろん午前だ。 ボクは駅のホームで電車を待ちながら、ちょっとびっくりするくらい「あ~嫌だなぁ」と思っている。 なぜ?という人もあるので説明をしておくと、朝8時の時間帯というのは、都内であればどこの電車であっても筆舌に尽くしがたいほ…

第二話 新しいガールフレンド

と言うのもガールがいなかったからに違いない、とちょうど一ヶ月前、ほぼ睡眠障害発症と時期を共にしてガールフレンドと別れていたことに、ボクは思い当たったのである。ある晩に。 考えてみるとボクはここ10年間女性が傍にいなかった時期がなかった。 別に…

第一話 睡眠障害

目が覚めると夜の10時だった。22時。 今日は、まだ土曜日だった。 休みで良かった、と安堵の息を付き、枕元のマイセンライトに火を点ける。煙を中に吐くと、即座に会社のことが頭に浮かんだ。 霞ヶ関にある某大手企業に勤め始めて早3ヶ月が経つ。 それまでフ…

final story ~ 柵 ~

その柵がいつからあったのか、町内の誰も答えられなかった。 雨風に曝されて、ボロボロの木片と化した柵。憐れみを誘う佇まいだ。 ボクは憧れていた。10歳の頃だ。 存在に気に止めている者はなく、優越感すら感じた。 14歳の秋にジッポライターのオイルを撒…

第三十一章 終わり

こんな感じで終わることに誰も不満はないのか? ない。 羊の物語はこれで終わる。 作者―――ボク=羊―――は丸谷才一の文章読本を片手にこの小説を書いてみた(嘘)。 もちろん、うまくいかないことが殆どだったし、うまくいったためしなんてない。 “25の奇妙な…

the 24th story ~ アヒル同様に ~

アヒルという生物が在る。漢字で書くと、家鴨。やがもである。 辞書を引くとこうある。 マガモを飼いならしてつくられた家禽(かきん)。紀元前に中国とヨーロッパで別々に家禽化されたという。肉用・卵用・卵肉兼用など、20種ほどの品種がある。 マガモ? カ…

the 23rd story ~ 携帯電話絵本 ~

新たなビジネスコンテンツ。 一日一絵本。グリム童話とか毎朝絵本でチェック。 教訓的コンテンツ。 流行るかな?

第三十章

こっそりと“the 25 strange stories”を病室に持ってきていた羊は「水口」の章を読み終えると、不思議な感慨に襲われた。ぬるりとした納豆のネバネバで身体を包まれたように、それは不快だったけれど、羊は甘んじてそこに浸った。そして本を閉じて眠った。 朝…

the 22nd story ~ 水口 ~

ボクという人間について語る場合、水口■●子について語らないわけにはいかない。 それがボクのリビドーだからだ。 情けないことに、ボクの性衝動は相変わらず彼女を起点にして動き続けている。(彼女は)振り子の支点のようなもので、彼女なしにはボクの感覚は…

第二十九章

「結局、現代における宗教ってのは、エロティシズムの曲解かファッションでしかなくなっているわけですよ、ダイさん」羊は見舞いに来たダイチに向かってふてぶてしく言い腐る。 「そうかもしれないねぇ、ほら、りんご剥けたよ、羊くん。美味しいよ、はい」ダ…

the 21st story ~掟: forget about it(ま~いっか)~

「フェイク」1997年【米】 Donnie Brasco 上映時間:126分 ジョニー・デップ主演のこの映画を知らない映画ファンはいない、と考えていいと思う。 「Forget about it」この言葉は映画が公開された年、タイムスのthe best line of the yearに選ばれた。昔のこ…

第二十八章

「羊的アート」 27歳の羊は、アーティストになっていた。 そんな馬鹿な、と思うが、本当のことだ。 そもそもアーティストというのは誰でもなれるものなのだけれど、仕事があるかはまた別の問題だ。それ―――即ち、金が稼げること―――を、プロフェッショナルと規…