勉強する工員

もう一年も前から工員はある資格試験の勉強をしている。
分厚いテキストを2冊買い、工場が主催する勉強会にも参加した。
しかしその資格を工員はまだとれずにいる。工場の仲間は元より、細君にさえ、「いつとる気なのよ」と詰め寄られたりしている。

工員は勉強が嫌いではない。しかしその資格試験にまったく集中できないのだ。もちろん、それはとる必要のない、趣味(例えばフラワーアレンジメント2級やらなんやら)みたいな資格ではなく、とればとったでキチンと給与に反映されて日々の業務にも大変有効だと思われる類の資格だ。
それだのに、工員は、まだそれがとれずにいる。

この一年間、この分厚いテキストを脇にのけて読んだ本を思い出してみる。「早く泳ぐ10のコツ」「砂漠で溺れるわけにはいかない」「競争の戦略」エトセトラエトセトラ 完全に趣味本だ。

工員は原因について頭を悩ませてみる。日々の忙しさ、グラミー賞を受賞するための楽器練習、細君との時間などなど、浮かんでくるのはどれも勉強とは関係のない時間の使い方のことばかり。

一体工員はいつになった資格をとれるのだろうか。