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しばらくするとアカハゲも起きてきた。鬢のところが跳ね上がっていて、その様はオレにひよこを思わせる。 小さい頭にとがった鼻、横に広がっていて血色の好い唇、目は真っ青で、髪は超がつくほど細いブロンド。そんな男が頭の両際の毛を跳ね上げて、白い寝間着を着ている姿はひよこ以外に何者でもなく、オレは飲んでいたコーヒーを机の上に置くと、この感動、イデアに触発され、喚起されて眼前に現れたひよこの像に向かって、この感動を分かち合いたい衝動に強く激しく襲われた。
 「髪型がすごいことになってるぞ」
寝ぼけ眼を擦りながら、左手で白い上着の裾を引っ張るとアカハゲは洗面所に消えた。
 「白いひよこだ」
 「ひよこ?」髪を濡らして、肩にバスタオルをかけたアカハゲが不思議そうな顔をして、オレの隣に腰掛けた。
ソファーはだいぶ使い込まれた布製のもので、5分割できるように、それぞれの部位にキャスターが付いている。色はグレーで、黒味ががかった糸で荒く模様が縫われている。模様といっても地面と水平に、線を引いてみたがうまくいかなった、そんな線がいくつも縫いこまれていて、白い上着などを着て深く腰掛けると、背中にあきれるほどの糸くずがついた。
 「そうだ、ひよこだ」うっかりと深く腰掛け過ぎたアカハゲは、キャスターがあらぬ方向を向いていたため、ずるずると動き、あやうくテレビの上に置いてあったプレイステーションを床に落としそうになった。
 「昨日の夜、電話があったよ」アカハゲは体勢を整えて、スリッパを履き直すと言った。
 「ああ、2時頃に電話あったな」オレは煙草をを消して、次のに一本火をつけてアカハゲに渡した。いぶかしそうに煙草をつまむと、ちらりと見て、結局口にくわえた。
 「小燕からだった」
 「どの?」
 「The one in Xishuanbanna」

この会話の五時間後

オレたちは虹橋空港で国内線の便を待つことになった。水掛け祭りが行われている、とのことだった。