#小説
水井近子は、最終的には、布原銀行の頭取に納まった。 水井の父は地方銀行の課長どまりではあったが、子供3人を私立幼稚園に入れ、市街地ではあるが3階建ての2世帯住宅を建造し妻の両親を引き取るなど大した甲斐性の持ち主だった。それにも関わらず、水井は…
右手の人差し指を口の前にあて、左手をゆっくりと老婆の額あてる。こうするとさらに良く心の声が聞こえることに布原は気が付いていた。 「お孫さんかな、そう」意味深に語り、言葉を少なくする。 目に涙を浮かべて老婆は言った。「布原さん、いや、布原様、…
先ほどから拙宅では扇風機の羽が旋回し、部屋を仕切っているビニールのカーテンがそれに反応し、シャ•••、ジャ•••という無機質な物質が擦れあう音以外は何の音もしていない。 いや、それは嘘である。 冷蔵庫のラジエーターからしているかすかなカリカリ音を…
出世したとは言い件、所詮勤め人。何ら昨日と変わりはないさと嘯いてみても周りが放っておかない。 ども、工場員改め、超工場員です。 まさか、とは思った。 ホントかよ、とも思った。 嘘だろ、と思ったときにはそれが叶っていたため、ことさらにに驚愕する…
山口県の雁木という名の日本酒を飲みながら、 BSでDlifeという米英や韓国のドラマばかりを放送しているチャンネルを見ている工場員は 「ああ、今年も始まったな。2015年だね。始まったね。ビギンという名のバンドがあったね。 一曲も知らないけど」など…
なんとか終電は交わしたものの、こんな時間に帰宅とあっては如何な工場員と雖も調子を崩すであろう。残業時間は月ごとに増えて行き先月は130時間を越えた。おまけに慣れない海外出張が続き一月も日本を空けるものだから帰って友人達との距離は広まるばかりで…
もう二時かよ。 仕事を終えて帰ってふろをためている間にニュースをチェックしていたらその事に気がついた。
広島にあるビジネスの一室で工場員はDaft Punkの「Get Lucky」を聞きながらビール飲んでいる。 やっとこさ解放された仕事からの帰途、青春時代一言一句間違えないで歌えるほど聞き込んだOasisの「Wonderwall」という曲を久々に聴きながら帰っていたら、突如…
理想というものがある。 理想。 ありたい自分。(しばしば妄想的に)あるべき自分。 「ブランド品も情報商材も”イメージ”を高値で買わされてるンだ。」闇金ウシジマくん 30巻 第311話 非常に使い古された言葉なのでいまさら感が相当あるのにもかかわら…
ムルソーよろしく「母が死んだでペロン」 と舌をだして首を45度傾げて笑ってみた 母は死んでないし、というか異邦人でもあるまいしさ。 なんといっても自宅謹慎中の身であるよ。どこへもいけない。 そう。9万円がとこの借金をしているのである。 たかだか…
無骨で流行を追わないことが唯一の工場員にも守りたい信条というものがある。 Credというやつだね。 Toeic700点以下の人はわからなそうな意地悪だね。それがもうすごく意地悪だと思わないものかね。 いっそIQの問題だと誰かが言い切ってくれたらなんぼか楽な…
さっきから拙宅では先日発売になったDuft Punkの待望の新作『Random Access Memories』の中の一曲である「Give Life Back To Music」が流れている。正確にはヘッドフォンからであるが。というのもさっきこれを大音量でかけていたら上階の人間から巨大な足音…
先ほどから我が家ではAC/DCというバンドの『Let's get it up(さあ、立ち上がろうぜ)』という歌が流れております。 ―――ようこそエイティーズへ、と言わんばかりの超シンプルなリフ&シャウト。一昔前なら反吐が出そうなサウンドだと一小節目から思ったもの…
男は眼鏡をずらして、私の手渡した原稿を繁々と、閲するように眺めながら「ふんはあ、ほうほう」とか「へかへやむりょむりょ」とかまたは「ぽりーうち、ぽりーうち」とか、20分くらいは意味踏めの放言をしていたかのように思う。そしてそれはその通りだっ…
そうして小説を書くこと半年、一冊の分量の文章を書き上げ私は意気揚々、前途洋々と 鼻歌まじりに飯田橋はS社へと持ち込みを行った。もちろんノーアポでだ。 受付にいた30代前半の女性は原稿用紙の束をヒモでくくっただけの私の姿をみて 黙って指をフロア…
仕事を辞めるということは、それまでやってきた生活を変えるということです。 通勤場所が変われば使う交通経路だって変わるし、つきあう人間も食事だって変わる。 勤務先によってはスーツ着用を義務づけられていたりするし、金髪にモヒカンだって何も いわれ…
気がつくと工場員はいつもどこかで自由律俳句を読んでいる自分に気がついた。 放哉や山頭火などの作品を読み散らかした後に必定、大橋裸木にたどり着いた。 そこまでの時間約3日。三ヶ月の余命という都合を鑑みても、まあ結構早いほうだと思う。 それはつま…
余命三ヶ月の工場員は色々な余命三ヶ月を考えてみようと思った。 なぜならば、余命三ヶ月というのは世界一周するにはちょっと短いし、 何もしないにしてはちょっと長過ぎるからだ。 病室のベッドの上で天井を眺めていた工場員は 手始めに余命三ヶ月五十音を…
そもそも単なる思いつきなんか発展させる必要すらない。 何かを作りたい。 そんな欲求を抱えている工場員は思いつくままに絵を描いたり、 文章を書いたり、音楽を作ったりと世の中の大半の人達が 一度は手を汚すあろうクリエイションのまねごとはしてみた。 …
弟がその白い粉を置いて帰ってから数分後、私は恐る恐るその小指サイズほどの太さのケースを鼻にあてて、くん、と吸引してみた。少しだけ鼻腔が痛んだがその瞬間、目の前の画像が音を立てて揺れた。ずきゅん!という効果音が聞こえるほどはっきりと。 私は台…
LaptopとはいったものでMacBook Proという名前の冠されている銀色の平べったい物体を膝の上に乗せて、右手にはタバコ、左手にはキリン端麗グリーンラベル(500ml)を持っているということは、両の手が塞がっているのだからこんな風に文章を書くことはできな…
Laptopとはいったもので直訳すると「膝の上」という。今PCを膝の上にのせてこれを書いている。書いているのは工場員だ。どこにでもある、なんということのない、全く普通のごくごく一般的な意味での工場員。名前はまだない。 工場員は今日渋谷に行ってきた。…
想像力だよ。 僕はヒロに言う。「想像力なんだよ」 もちろんこれだけでは何の意味もなさない。僕はさらに説明を加える。 「ただの想像力じゃだめだ。それは伝わってこなくてはならない」ナイン。まだ抽象的に過ぎる。 「つまりさ、監督だね。クリエータ、ア…
布原はその時22歳だった。東京大学を受験するため上京して以来東京に住み着いている。東京へ出てくる数ヶ月前に亡くなった祖父が少なくない遺産を彼のために残してくれたおかげで彼はこの年までいっさいの労働を忌避することができた。それはある意味大変…
工場員は小学校4年生のころ、転校してきたある少女に恋をした。 個人宅が鬱蒼と立ち並ぶ町内を出て、学校へと向かう朝、今じゃコンクリートの中で育てられている田んぼの塀のわきをすり抜けると十字路に出る。小川が流れている、十字路。で、工場員と少女は…
レースのカーテンがひらひらと揺れる様を飽きもせずずっと見ている。 ここ北品川病院211号室には他に3人の入院患者がいた。各人各様の病を背負っており、その見舞客も異なっており、三日と置かず訪ねてくるものもあれば、1週間に1度だけ仕方なくといっ…
4ヶ月ぶりに実家に帰った工場員の目にしたのは泥酔した両親だった。 深く眉根に皺を寄せた父親は開口一番「お前らが帰ってくるとマイナスなことばかりだ」と、酔った勢いなのか、本音なのかそういった。思い当たる節がないでもない工場員は絶句した。 そうか…
地表には音楽が溢れすぎていている。情報も多すぎる。 目の前にそびえたつペンシル型のビルにもそこかしこに広告が貼ってあり、そのどれも商品を直接売るのではなく、つまりリンゴ屋さんが広告主で、リンゴのけってくれ、と頼んだって、本当にそれがその思い…
結句、自分の瞳で物を見るということは、様々なバイアスは放っておいて、自分、ここにいる自分を中心に見て、感じることである。 大したことではないけれど、意外とやってみると難しいことに気がつく。 というのは、意外と人は自分の瞳で物を見ていないから…
「ええ、結論からいいますと」CIA長官はゆっくりとカンペに目を通すと、もう一度カメラの方へ向き直った。レンズの向こう側では世界がその言葉を待っていた。 「あと7年後に地球は滅びます」 その後の世界がどうなったかは想像に難くない。意外といままでど…