2018-01-01から1年間の記事一覧

15話

かつてケルベルロスは言った、地獄の入り口には道標がない、と。 俺たちはそうとは知らずにいつの間にやら地獄に迷い込んでいたけれど、そこが地獄の入り口だとは誰一人気がついていなかった。 これは考えようによってはとても面白いことで、地獄にいること…

14話

家族を捨ててから数年後、大ちゃんは2種免許をとって介護タクシーなる商売を始めた。Facebookでその情報をみた俺はあきれてしまった。自分の家族も救えないやつが、人の世話だって?悪い冗談かよ。 数日後、たまたま真と洋平を会う機会があったのでそのこと…

13話

2018年現在、あれからもう十年以上経過した。 「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」という言葉通り、緑の家のメンバーの不幸も実に様々な形をとっていた。 いち早く緑の家から引っ越し、コミュニティ崩壊…

12話

「どんな人?」2007年春。 「天使みたいな人」 俺としんさんは緑の家の俺の部屋にいる。 しんさんはそこで俺に恋の話をしている。 俺もしんさんもどうしようもないクズだから、それはそれは仕事を変わった。 倉庫整理、インターネット回線の電話営業、出…

11話

パーティーが終わってから緑の家ではたくさんのことがあった。 大ちゃんの彼女の妊娠が発覚した。 真に彼女ができた。 操に彼氏ができた。 春ちゃんが激しいうつ病状態になった。 洋平が大学時代からの女と別れた。 しんさんも、説明した通り、一人になった…

猛暑

千代田区にある当工場の11時の気温は39度だった。首にまいたタオルが汗で2倍ほどの重みになっている。ためしに絞ってみると、冗談ではない、ばちゃばちゃと音をたてて床に黒いしみをつくった。 工場全体の空気は重々しく、人はもちろん、機械も物もスローモ…

10話

2005年11月18日 俺たち、というのは緑の家にすむメンバー全員は、下北沢にいた。 下北沢というのは緑の家があった練馬区からみれば、極地、彼岸、最の果て。しかしカラー的には、完全に同系ということになるので、会場につく頃には町のあちこちにいるアング…

9話

しんさんが金を借りにきた翌週から俺は新しい職場で働くことになった。給与はそれまでの3倍ほどになった。それまでが時給900円なんだからたいした金額ではないが、それにしたってそれまでの3倍というのは逆にその程度の収入の人間にショックを与えるに…

8話

土曜日の朝、俺の部屋の扉がノックされた。 「誰?」前日も遅くまで酒を飲んでいたから少々不機嫌。我ながら声が尖っている。 「俺。しんすけ」昨晩、たっぷりと部屋でグリーンラベルをご馳走になっていたので開けないわけにはいかず這いずるように起き上が…

7話

少し俺の話も。 時は、2004年4月。 六本木ヒルズがオープンしてちょうど1年を迎えた月。 俺はオープンから1年勤めたその不夜城のテナントのひとつである中華料理屋を辞めて、京橋にある商社で働くことになった。 商社といっても社員は社長と俺を含めて4人、…

6話

緑の家に越してきたしんさんが最初に捕まえた女はみさおだった。 みさおは北海道出身で、しんさんが越してきたときにはドミトリーに住んでいた。 ドミトリーというのは、本館から独立した、2段ベッドが2つあるほったて小屋で、1日単位で宿泊することができる…

5話

引越しが完了するのを見届けてからしんさんが暮らすことになる、211号室に遊びに行った。 「おつかれ~」グリーンラベルの500ML缶を3本もって部屋をノックすると、大ちゃんが顔を出した。 告白すると俺は彼の笑顔に弱かった。なんなら子供をひき逃げしたと告…

4話

たしか、しんさんが俺が住んでいた「緑の家」にやってきたのは夏の終わりごろだった。 たしか、ひどく暑かった日の夕方で、夕立が去ったあとに、管理人の長谷川が軽トラで帰ってくるのが、眼下に見えた。助手席から降りてきたのがしんさんだった。丸刈りで、…

3話

「しんさん、おはよう。ある?」部屋をノックするとしんさんはすぐに出てきた。 「あるよ」しんさんの部屋にはちょっと大きめのスピーカーと革張りのソファーがあった。スピーカーからは雑音のような音楽が流れている。旋律と呼べないこともないレベルのオー…