福ちゃんは、こう言った。
「ずっとそうしなくちゃそうしなくちゃって思ってて。ていうか、そう思ってることにすら気がつかないほど、ごく当たり前に染み付いてたんだと思う」
「笑顔でいることが?」
私たちは松原真が脚本監督した映画を撮るために緑の家の裕三の部屋に集まっていて、自分がこれからどんな人間になりたいかという話をしていた。
さすがだ。凄まじく本質的かつ非生産的な会話である。27歳ですよ!
福ちゃんは宙見つめると、少し目を閉じた。
自分に失望したんだよね。私ってずっと笑顔で楽しそうにしてなくちゃって、笑えなくなって初めて気づいて。笑おうとしても無理で、なんでなんでって何回も。
「その時、福は初めて自分と向き合ったんだよね」しんさんはそういうと、福ちゃんの肩をそっと抱いた。
窓の外で、鳥が鳴いた。真はカメラを回し続けた。