2005-01-01から1年間の記事一覧

第二十五章

右手を地面の型にしっかり合わせてみる。 それは寸分違わず、羊の右手を一致している。 僕の右手と一致している? どうして? でも間違いない、これは僕の右手だ。 僕の右手。 そんな歌があった。 「僕の右手を知りませんか?」 ブルーハーツだ。 「行方不明…

the 19th story~ 「些か」「砂」~

コードネーム 「些か」 コードネーム 「砂」 「些かぁ」と砂は言った。 「なんだ砂?」些かは応える。 「この名前なんだけど、些かってやつな。俺には読めるけど、中卒じゃ読めないよ、高卒だって怪しいぜ」砂は靴を磨きながら言う。 「別にいいんだよ」と些…

the 18th story ~ 複雑に緊迫した ~

ボクには恋人がいた。 かつて、いた。 今は他人だ。 でもかつてはいたのだ。確かに、いたのだ。 ではどうしてかつてはいたのに、今はいないのか。 ボク達は別れたからだ。 不思議なものだ。 別れると、もう付き合っていないのだ。もうその時点から、恋人でな…

第二十四章

もうどれくらい歩いただろう。 24時間は経過しただろうか。 羊は、暗闇で音も無い平坦な道を、歩き続けている。 思い思いの方向へ歩いている。右へ左へ、東へ西へ。 羊の孤独は羊を包み込み、やがて羊自身を飲み込もうとして やっぱり立ち止まり、闇の中に戻…

the 17th story ~とめどなく 夢を~

コーヒーを入れる。 タバコに火をつける。 いすに座る。 パソコンを立ち上げる。 眼鏡を掛ける。 一口コーヒーを啜り、一口タバコを吸う。煙を吐く。 溜息を付く。 思い出を思う。 本を開く。活字を拾う。タバコを吸う。コーヒーを飲む。 ノック。ノック。 …

第二十三章

漆黒の闇は少しずつだが、羊を蝕んでいった。 白くふわふわとした羊毛は、墨でも落としたようにじわりと暗闇に染まっていった。 「怖い」羊は声に出してみる。「誰か助けてくれ!」 しかし羊の声は響かない。恐ろしく響かない。 しばらくして羊は立ち上がっ…

the 16th story ~勇敢に 確実に~

エリック・クラプトンが叫びだす。 なんてことだ。 コンサート会場はざわめいた。久々の日本公演だってのに、ボーカルの暴走。 ファンは慌てふためき、メンバーは楽器を止めて唖然とし、プロモーターは携帯電話を取り出しどこかに懸命に電話を掛けていた。カ…

第二十二章

羊は暗闇の中にいた。 いたのか、あったのか、判然としない。 暗闇の中にあった、という方が適切かもしれない。 羊は暗闇の中にあった。 うん、この方が適切だ。アプロプリエイト。 記憶は不鮮明で羊を動揺させた。 ところで暗闇で目を覚ましたことがある人…

the 15th story ~カボチャポイント・月光浴~

サーフィン この音に取り付かれたのが27歳の冬だった。 サカモトという先輩がオーストラリア放浪の旅から帰ってきたのだ。カレの目的はサーフィン。 サカモトは言う。 「波を感じるんだ」 もちろん、その意味はボクには伝わらない。 「波を読むんだ」 波を読…

第二十一章

その日、羊の葬式が羊の故郷で営まれた。 緑屋に出入りしていて羊を知るものが多かったことから、鄙びた旅館にはかつて無い数の客が泊まり、数日間、商店街は不謹慎なほどにぎわった。 式中、羊の父は涙を見せず、母は号泣していた。 羊の数少ない学校の友人…

第二十章

10月半ば。 羊は孤独だった。 夜中に布団の中で突然目覚め、水道から水を飲み、窓を開ける。 外はシトシトとした雨が降っていた。 わずか数ヶ月だが、この寮に来てから羊は恐ろしいほど多くのものを失っていることに気が付いた。 次の朝、眠い目を擦って、パ…

the 14th story ~ 敢えて上へ~

赤貧という言葉が象徴しているように、貧乏とは 擦り切れて、血が滲む、靴擦れ。 靴に慣れるか、新しい靴を買うために働くか・・・。 男は貧乏をそんな風に考えていた。結局、いつかは換えなくてはならないのだ。 なぜなら、足は日増しに大きくなっていくか…

the 13th story ~ 歌うネコ ~

ある晩のことだ。 少年は悩んでいた。 遠距離恋愛をしていた彼女から 実に六ヶ月振りに、手紙が来たのだ。 少年は悩んだ。なぜなら彼にはもうすでに新しいガールフレンドがいるからだ。 しかし、手紙。開けずに捨てられるほど、少年は大人ではなかった。 12…

the 12 story ~ 聡明さ争い ~

人の死というのは悲しいものだ。 小学校の時一度同級であっただけの者であれ、それは等しく悲しい気持ちを抱かせる。 そして親しい者が逝った時、 「Live forever」と声高に叫んでも、もちろん、何の解決にもならない。 カトウの訃報を聞いたマイコは、ナガ…

羊的回想 その3

窓からコツコツという控えめな音がした。 暗闇で目を覚ますと羊は枕元の腕時計に目をやる。 蛍光塗料が鈍い黄緑色を蛍みたいに光らせていた。 2:19 ふぅ、まただ。 羊はこのところ、2:19に悩まされていた。 2:19 2/19 二月十九日 羊の誕生日だ。 この寮に越…

夕刊セックスとは

真夜中(午前2時ごろ)に、墓場で女性にハーモニカを吹かせながら セックスをすることである。

羊的回想 その2

「あんた、なんだか色々してるみたいじゃない?」ポンは腹を擦りながら開いた扉の前でそう言った。 「何がですか、ポンさん?」羊は、日曜日の昼間に突然現れたポンに驚きながらそう訊くと、仕方なく中に招き入れた。「まあ、入ってくださいよ、立ち話もなん…

羊的回想 その1

羊が住んでいる部屋の下にはあのうるさいハルキンが住んでいる。そして、羊はあまり語りたがらないが、隣にはオキナワさん、と呼ばれていた男が住んでいた。 「オキナワです。ふつつか者ですがよろしくお願いします」オキナワさんは羊が<元緑屋社員寮>に越…

第十九章

「90歳になった老人が、宝くじに当たった次の日に死んじゃったんだって。 それってシャルドネに落っこちた黒い蝿みたい。 まるで、2分遅れで起こった殺し合いみたいじゃない。 皮肉よね。 そうは思わない?」 羊が失恋したことを傭兵に伝えると彼は黙って「…

the 11th story ~てんてろてんとした映画~

「てんてろてんとした映画」 男と女が一緒にいる。 女は携帯電話で誰かと話をしている。男は女に背を向けてパソコンに向かってひたすら文章を書いている。 女「なんかもめたみたい・・・」 男「・・・・・」 女「そうだね」 男「・・・・・」 女「穴開いちゃ…

第十八章

茫然自失。 羊は「Waking life」に文字通り、衝撃を受けた。そして傭兵が言うエントロピーの世界観と彼が言った羊の人生の最も影響を与えているだろう“誰か”に思いをめぐらせた。 さて、と羊は思う < さて、ボクは、特定個人でないにせよ、社会や組織やコミ…

第十七章

「つまり君はCLUB Caveから出て、気が付いたらバスに乗っていた、と」傭兵はヨーグルト食べながら、訊いた。「CLUB Caveとバスにはなんの共通項もない」 「ええ、そうなんです」羊は、牛乳を片手にメロンパンを齧っている。さっきから羊は、全く牛乳とメロン…

第十六章 er&#39; ling pa

頭を金槌でかち割り、もろ手で中身をごっそり抜き取り、ピンク色したヌラヌラの脳みそをちょっと大きめのビニール袋に入れて、口をしっかりと縛る。そいつを両手でしっかり持って、オラオラオラぁと気合の入った掛け声と共に、振り回した感じ。 そんな感じで…

the 10th story ~ 可愛らしさ もう一歩 ~ 下

それじゃ、また。 ミッキーは車に向かっていうと、店に入ってきたわよ、ずうずうしく。 「一体どういうこと?今日も遅刻だわ」あたしは、額に皺を寄せていたと思うわ。それなのにミッキーのあんぽんたんったら、時計を見て、一分の遅刻、許せないわけないね…

the 10th story ~ 可愛らしさ もう一歩 ~中

ミッキミッキミッキミッキミッキミッキーマウス M I C K E Y M O U S E ♪ これだけで「フルメタルジャケット」が浮かんじゃう人だったら、絶対にあたしともめたりしないのに、残念ながらミッキーはスタンリーキューブリックなんて知らなかったし、ウディ・ア…

the 10th story ~ 可愛らしさ もう一歩 ~ 上

よし、今日も朝なんだけど、私は美容師。スーパー美容師とまと。“とまと”はひらがなで“とまと”。 可愛いでしょ?でもなんだってあたしにこんなけったいな名前をつけたのか、父さんに詰問してみたところ「いや、生まれた時にとまとが赤かったから」。あきれて…

第十五章 子社長の趣味

緑屋商事2代目社長は(元社長と言うべきか)、通称“小社長”と呼ばれていた。所以は父の大社長よりも身長が20センチも低かったことが大きな理由だった。チビという言葉に異常なコンプレックスを有していた社長が、近しい人間に自分を小社長と呼ばせていた所以…

第十四章 シン

毎週土曜日になると、驚くほど沢山の人たちが《 元緑屋商事 社員寮 》を訪れた。 それも10や20なんて数ではない。 一度暇な時、羊はその数を18時頃から数えたことがあった。23時までに合計70人という人たちが一階の入り口から姿を消した。そして彼らは朝の6…

第十三章 図書館の彼女のその後

3月に羊が学校を卒業してから、女の子は不当とも言えるほどの喪失感を抱えて静かに生きていた。校舎の隅に忘れられたように佇む木製の1階建ての建物、図書館に守られながら。 女の子は授業が終ると友達に挨拶すらしないで、図書館へ足を運んだ。そして片端か…

the nineth Story~ みみず城~下

それはアイスランドに聳える白い城だった。吹雪にも凍らず、紫色のライトで照らされた不気味な城。城は少年に向かって笑い声を上げていた。 少年は夢から醒めると、中心の政府にそういう城がないか、連絡してみた。一報を聞いた中心政府の役人は大笑いし、す…