羊的回想 その1

羊が住んでいる部屋の下にはあのうるさいハルキンが住んでいる。そして、羊はあまり語りたがらないが、隣にはオキナワさん、と呼ばれていた男が住んでいた。
「オキナワです。ふつつか者ですがよろしくお願いします」オキナワさんは羊が<元緑屋社員寮>に越してきた晩、折り目正しい態度で挨拶をしに来た。
突然の来訪に羊は顔が引き攣るのを隠せなかった。というのも、別にオキナワさんが恐ろしい顔をしていた訳ではない。羊は(多くのスポイルされた子供がそうなように)大人と接するのが大の苦手で、オキナワさんは40がらみのおっさんだったのだ。いい年したおっさんが高校生ごときの羊に、ありえないほど下手な態度で来訪したのである。羊がどぎまぎするのも頷ける話だ。
オキナワさんのルックスは表現するのが非常に難しいが、巨大なメダカを想像していただくと間違いがない。
「まぁつまらないものですが」と言ってオキナワさんは左手に持っていた鉛筆を一本渡してきた。
「?」
「これは幸運を呼ぶ鉛筆です」
「?」
「イエイエ、本当につまらないものなんですが、ははは」と言ってオキナワさんは頭を掻いた。羊は、言うまでもないが、絶句した。鉛筆が、残った。

これがファーストコンタクト。