the 10th story ~ 可愛らしさ もう一歩 ~ 上

よし、今日も朝なんだけど、私は美容師。スーパー美容師とまと。“とまと”はひらがなで“とまと”。

可愛いでしょ?でもなんだってあたしにこんなけったいな名前をつけたのか、父さんに詰問してみたところ「いや、生まれた時にとまとが赤かったから」。あきれて物も言えないけど、さすがは元八百屋のお父さん。ちょっと感心、リスペクト。

って、自己紹介もこの辺で切り上げ、あたしはお仕事。みんなの髪をチョキチョキ、ちょきちょき。あたしのはさみにかかれば、どんなカボチャもちょちょいのちょいで、薔薇の様。あたしって天才?

もう10年になるわぁ、この仕事。でも飽きることなく、あたしは今日もミケランジェロのようにお客さまの髪に潜むビューティーを開拓中。あたしも満足、お客さまも満足のとっても素敵なおしゃれ関係。

季節の変わり目、お肌の曲がり目。じゃなくて、お髪の見直し。店の予約張が埋まってなければ、あたしはすぐに街に出る。外をウロウロ歩いているハイエナみたいなおじ様方をコギャルの喜ぶダンディーパパへ。援助な交じわり好調で、日本経済活性化。嗚呼、なんと麗しき人間成長。ルネッサンスに花開き、あたしの腕で固定された永遠の美観は、今日も色無き街を潤わす。

でもそんなあたしのたった一つの挫折。それがミッキー事変でございます。
遡ること4年前。台湾人のミッキーが、あたしのお城にご入場。といっても、もちろん、お客さまとしてじゃあなくってよ、ほほほ。アシスタントっていうのかしらん、とにかく手伝うどころかお店を荒らすミッキーに腹を立てたのはあたしだけじゃあなくってね。でもでも、スーパーなあたしは、決して挫けず諦めず、役に立たないミッキーを何とかかんとか真人間、迄行かなくても人間へ、なんとかしようと思ったわけ。