第十九章

「90歳になった老人が、宝くじに当たった次の日に死んじゃったんだって。
それってシャルドネに落っこちた黒い蝿みたい。
まるで、2分遅れで起こった殺し合いみたいじゃない。

皮肉よね。

そうは思わない?」

羊が失恋したことを傭兵に伝えると彼は黙って「アラニス・モリセット」の“ironic”を聞かせてくれた。そして歌が終ると、「皮肉とは何か。定義してごらん、羊くん」と訊いてきた。
「皮肉、ですか・・・」羊は歌詞の書いてあるカードを読みながら、皮肉について考えた。長い沈黙の後、答えられずにもじもじしている羊を見て、傭兵は答えを静かに述べた。
「皮肉とは思っていることと反対のことをいうことだよ」

11番目の話は、映画の話だった。どうも男女の行き違いについての映画だったので傭兵の部屋に来たのだが、予想に反して音楽を聴かされることとなった。そしてこの質問と答え。

「リアリティーバイツ」という映画で全く同じ質問がされていたことに羊が気が付いたのはずっと後のことだったが、少なくとも羊はその時、これを一つの慰めと取る事ができた。女の子がハンカチを投げて寄越したのは、ただの皮肉だったのだと。

ここから彼は深い思考をしないで、どんどんと話を読み進めることを決意する。傭兵の部屋を出た羊はすぐさま「25 strange stories」を手に取りベッドにもぐりこんだ。