第二十一章

その日、羊の葬式が羊の故郷で営まれた。
緑屋に出入りしていて羊を知るものが多かったことから、鄙びた旅館にはかつて無い数の客が泊まり、数日間、商店街は不謹慎なほどにぎわった。

式中、羊の父は涙を見せず、母は号泣していた。
羊の数少ない学校の友人たちは、まだ羊の死が信じられないといった面持ちで線香に火をともしていた。

緑屋社員寮の面々はポンが羊の遺体を発見すると全員しょっぴかれて
そのうち何人かは、別の罪で服役することになった。

果たして羊はそんなことを望んだだろうか?
そもそも羊はどうして死ななくてはならなかったのか?

あらゆる死は平等である。だから死の意味というのは、残された人々が付与するべきものだし、仮に遺書があったとしても(羊の場合それはなかった)、そこからどのようなメッセージを受け取るのか、というのは残された人々の課題で、羊自身の課題ではない。そういう意味で、死は確かに平等だ。後は残された人が羊に対してどのように感じいたのか、がすべてになる。よってここからは羊を取り巻く人たちのインタビューをお伝えする。

傭兵「羊君はなんていうか、自分を罰しながら生きていたような気がする。喜びを喜びとして甘受できないというか。それは弱さかもしれない。でもその弱さをなくせなんて僕は言えない。いや、言えなかった。だってそれが彼の魅力でもあったのだから。合掌」

ポン「話すことなんてないわよ。彼のせいであたしまであそこ(緑屋社員寮)クビになっちゃったんだから。いま?タクシーの運転手やりながら、また自転車旅行にでようかって考えているところ。結構、精神的にやばいところは持っていたけど、まさか死ぬとは思わなかったわ。だって、16歳よ。まあ、16歳だから死ねたってこともあるんだけど。あたしなんて29で死んでるはずだったのに、こうして生きちゃっているから、今も生きてるのよ。あーあ、あたしも早く死にたいわ」

ハルキン「何で何も言わないで、死んじまったんだ。馬鹿な奴だ。本当に馬鹿だよ。話だって読みきってないのに。これから誰がこの物語を語り継げばいいんだよ?」

ダイチ「悲しいよ。ただ悲しい。でも僕は彼のすべてを許したい。今は刑務所の中だけど、これもきっと羊くんがくれたプレゼントだと思って、大切にこの時間を過ごしたい。さようなら、羊くん、そしてありがとう」

シン「いやあ、わけわかんないね。ダイチはいいかもしれないけど、俺はさ、ほら、子持ちだし、新しく出来た彼女にも子供ができたっぽいんだよ。その矢先に、これだもん。まさかあの程度で実刑2年食らうとは思わなかったよ。あーあ、養育費とか色々大変なのになぁ。まあ、でも起こっちまったことだしね、羊もいい奴だったから、許すよ。俺は許す」

ゴッドウィン「わたし、一回も、出番無かったよ。黒い巨星とかいわれて、カレとも喧嘩しそうになった。でも、その後話した。カレ、なかなかいい人よ。でも人のもの取る、ダメ。わたし、許さない。でも可哀想。死はみんな来る。ぜったい逃げない。逃げられ・・・ない?そうそうそれ。わたしにもあなたにも絶対来る。だからみんな一緒。またね」

松原真「俺がこっち帰って来れたのも羊のお陰や。感謝してるで。今までの記憶?ないって、んなもん。ただの空白や。でもええねん。生きてても死んでても同じようなやつばっかやろ。自分で何かを掴み取っただけでも、それだけでもええねん。それがオリジナリティや」

図書館の女の子「話す事?ありませんよ。今ですか?幸せにやってますよ。彼の死は悲しいですよ、それは。でも本質的な悲しさではない。本質的というのは、砕いて言うと、私は別に悲しくない。その周りに漂っている雰囲気が悲しいですね。それに感応して、悲しく思います。でもそれだけです」

バスの運転手「あれは、死んじまっただか。酒飲み過ぎだよ、ありゃ。んだけど、俺も、若いときは、結構悪いことしたし。でも死ぬことはなかったんでねか。でも死んじまったもんは仕方ねぇ。冥福って?それを祈るよ」

轟「夕刊セックスについての謎だけはせめて解いて欲しかったですね。僕のアイデンティティだったし。結構、この中では重要な役割を果たしそうだったんですよ、本当のところ。でもまあ、作者不在じゃしかたがないですね。また別の機会にゆずります」

盗聴されていた女「こうして日の目を見なかったら、私がクリスタルに入っちゃっていたなんてことも気が付かなかったわけだし、ちょっと感謝しているかな。なんで自殺なんてしたんだろう?でも私は、ちょっと自殺する人の気持ち、わかりますよ。ご冥福をお祈りします」

宝石屋の店主「なんかなぁ、すっきりしない思いですよ。なんだか私は悪者だったのか、善的なものだったのか、わからないじゃない?いやそもそもわからなくて良い、って意見もありますけどね。致し方ない。上の彼女も救われたことだしこれで良しとしましょうよ」

その他大勢いますが、以下割愛。