the 16th story ~勇敢に 確実に~

エリック・クラプトンが叫びだす。

なんてことだ。

コンサート会場はざわめいた。久々の日本公演だってのに、ボーカルの暴走。
ファンは慌てふためき、メンバーは楽器を止めて唖然とし、プロモーターは携帯電話を取り出しどこかに懸命に電話を掛けていた。カメラマン達は、狂人のごとくギターを壊し、ドラムセットに蹴りを入れるクラプトンを撮りまくった。

「ジミーがなんだ!カートがどうした?俺はなんだ?子供は死んだ。女を取った。金はある。薬は抜けてる。だから一体なんだったんだ?」

クラプトンはなおも絶叫し、マイクを掴み口にそれを押し込んで、観客までにも襲い掛かろうとしている。メンバーが止めた。それを止めた。身体を張って、文字通り、止めた。

武道館はかつて無いような、ざわめきを発し、クラプトンはメンバーに身体を押さえられながら、舞台のすそへ消えた。

次の朝、どこの新聞やテレビでもそれを報じた。曰く、クラプトン発狂、どこへいく?エリック。などなど。

しかし誰もその本質をわかっちゃいない。いや、わかっているのかもしれないが、恐れ多くて言えないのだ。報道できないのだ。

その後、しばらくして一通の手紙がテレビ朝日に送られてくる。差出人はジョージ・ハリソン

「色々あったけど、彼とはいい友達だ。悪く言わないで欲しい」

とだけ記されていた。

それが何だというのか?と関係者は一同に首をひねらせ、時の流れと共にその話はうやむや、気が付けば伝説となった。