the 18th story ~ 複雑に緊迫した ~

ボクには恋人がいた。
かつて、いた。

今は他人だ。

でもかつてはいたのだ。確かに、いたのだ。

ではどうしてかつてはいたのに、今はいないのか。

ボク達は別れたからだ。

不思議なものだ。
別れると、もう付き合っていないのだ。もうその時点から、恋人でないのだ。
かつての恋人になってしまう。ややこしい話だ。

理由を簡単に説明しよう。

そのかつての恋人には、親友がいた。

その親友は、かつての恋人から、かつて、かつての恋人のかつての恋人だった人を奪ったのだ。

しかもかつての恋人はかつての恋人のかつての恋人の子を孕んだことがあった。
しかしそのかつての恋人のかつての恋人だった男は逃げた。
かつての恋人はとほうに暮れ、その子を始末した。

それからしばらくしてかつての恋人はかつての恋人のかつての恋人に再び逢いはじめる。逢瀬を重ねていた。

かつての恋人はいうまでもなく、頭の悪い人だ。

しかしひょんなことからそのかつての恋人のかつての恋人は、かつての恋人の親友と遊ぶようになる。

しばらくして、かつての恋人はその親友がかつての恋人のかつての恋人と定期的に自分を抜きで会っていること知る。かつての恋人は深く傷ついた。

しかし数年後、かつての恋人はその親友と親友に戻る。

理由はわからない。

でもボクはその話を聞いて、かつての恋人の親友とは付き合えない、と考えた。
その旨をかつての恋人に話すと「なぜだ?」と詰め寄られた。
ボクは「君と彼女(かつての恋人の親友)の間にある“複雑に緊迫した空気”に堪えられないのだ」といった。
かつての恋人は「それはあなたの杞憂だ」と言った。

しばらくして、その不一致は究極的とずれとなり、我々は別れ、恋人はかつての恋人になった。