the 19th story~ 「些か」「砂」~

コードネーム 「些か」
コードネーム 「砂」

「些かぁ」と砂は言った。
「なんだ砂?」些かは応える。

「この名前なんだけど、些かってやつな。俺には読めるけど、中卒じゃ読めないよ、高卒だって怪しいぜ」砂は靴を磨きながら言う。
「別にいいんだよ」と些かは応える。「どうせ、そんな奴らと話すことなんてまず無いし、俺達の名前は俺達の間だけで伝わればそれでいいんだ」些かはタバコを灰皿に押し付けると、週間少年ジャンプを開く。
「砂はなんかいいよな」砂は自嘲気味に言う。
「砂なんてどこがいいんだよ。海のほうが良いぜ」
「海か・・・・」砂は黙り込む。

「結局さ、この仕事って誰のためになってるのかな?」砂はライターをもてあそびながら訊く。
「考えたこともなかったよ、そんなこと」些かはやる気なさそうに応えた。「大体、そんなことを考えるお前は、些か、暇に過ぎるぜ」
「悪い冗談はやめろよ、些か馬鹿っぽいぜ」砂は鼻で笑うと、ティッシュを2枚とって鼻をかんだ。

「さっきの話だけど」砂はぼそりと言う。
「うん?」本を閉じてまたタバコを一本取り出す、些か。
「海ってやつ・・・・。確かに砂より海のほうがいいよな。ねえ?」
「どっちだって同じだって、俺だって些かよりも多分とか余計なとかのほうがよかったよ」些かは煙をうまそうに吐いた。
「余計な・・・、ねぇ、いまいちだな」
「じゃあ、どんなのがいいかな?」
しばらく唸ると砂は言った。「光とか太陽とかさ、なんかポジティブな名詞が良いよ。副詞や形容詞は名前として適切じゃない気がするな」

「そうかもしれない」と言ったきり、些かは黙った。