2006-01-01から1年間の記事一覧

★ 01019

・・・と、普通の話だとここでけりがついてしまいそうだが、 カウチの場合、そう簡単に話が進まない。めでたしめでたし、で何でも終われるほどこの世は単純にできていないようだ。 本当ならば、各登場人物の後日譚を書いておけば事足りるのだろうけど、I me …

★ 204

「ふーん」エミリーがため息とも感嘆ともつかない声を出すと、オレは一口ビールをあおった。 「そういうわけで、オレの経営再建のミッションは終わった」げっぷ交じりに言うとエミリーは自分のブラッディーマリーをストローでかき混ぜながら、口はしで笑った…

★ 202

ジャマイカに飛んだオレを待ち受けていたのは、ドレッドにしない攻撃のおばちゃんたちと、草あるよぉ攻撃のにいちゃんたちだったけど、それ以上に興味をそそられたのは、あのズッチャズッチャのリズムが、かりそめのリズムではなく、ジャマイカ全体に蔓延す…

★ アラララロング 201

レゲエ、がオレの心をとらえた。 ここを日本レゲエの聖地にしてしまおう。 オレは有紀に電話する、もしもし有紀、オレだけど。 板長の不在から生じた軟弱な体制のホテルビジネスの実態は、明らかに巨大なバックボーンを必要としている。 ことと次第を話すと…

★ 4133

旅行に対する‘オレ’の考察 何ゆえにオレは旅行するのか? オレはいったい旅に何を期待している? オレの旅行というと、それは22歳の時にした世界旅行が最後になる。 それは現実逃避の現実的な形だった。 現実逃避 ――― 今ある状態から逃げること。 オレの今あ…

★4132

女将が言っていたように「いい板前に当たるのは宝くじに当たるようなもの」のようだった。林君を辞めさせた後にも何人もの板前が来たが、どれも使い物にならなかった。 たいていは口だけの能無しか、腕はいいのだが、休み勝ちだったり、反抗的なはねっかえり…

★4131 料理のクオリティーダウン

板長の不在は、予想以上にホテルの雰囲気を変えた。 「改めまして、ホテル『タータン・チェック』にようそこいらっしゃいました。私がお客様の客室係を勤めさせていただきます、正子でございます」 この間まで秋ごろのやぶ蚊みたいにか細い生き物だった、正…

今までの音楽、これからの音楽 7

今回で、この話は終わる。 予想していた以上に長引いてしまい、自分でも驚いている。 一匹の羊のたわごとはある結論を今から導き出す。 ★★★ ビートルズの破壊者としてのピストルズの圧倒的な成功がもたらした、強力な地盤を引き継いだオアシスは、再び時代の…

今までの音楽、これからの音楽 6

勇気付けから突き放しへと、ブリット・ポップは変質した。 「とにかくオレたちは、一人なんだ」 完全な個人主義の到来。21世紀は「人間は個人」であって、何ものもそれを侵すことはできない。 孤独な考え方じゃないか。 ボクは、20代前半の時に、そんな風に…

今までの音楽、これからの音楽 5

前号に「『OASIS』について書くことはない」と書いたが、それは「OASIS」というバンドとボクとの関係をうまく語る言葉を知らないというだけで、彼らの歌について全く書くことがない、と言っているわけではない。 例えば、彼らの代表作の中に「Live forever」…

今までの音楽、これからの音楽 5

1996年、ボクがイギリスに渡ったとき、人々はもちろん、エルビスになんか目もくれていなかった。 「OASIS」 このバンドについて今のところ語ることは、ない。 断っておくと、ボクはこのバンドを誰よりも愛したし、誰よりも憎んだ。だから決して悪い意味には…

今までの音楽、これからの音楽 4

「 Tutti frutti(トゥッテイ・フルッティ)」 リトル・リチャードの'55年のヒット曲をエルビスがカヴァー。 「Wop bop a loo bop a lop bam boom!」と軽口な呪文で始まり、一小節ごとにマシンガンのような鋭いギターのカッティングが追いかける。 聴いてい…

今までの音楽、これからの音楽 3

ボクの音楽体験は「レイ・チャールズ」から始まる。13歳の頃だ。 サントリーウイスキーのCMでレイがカヴァーした、英語版「いとしのエリー」を、(どういう訳か)いてもたってもいられないほど、欲しくなったのだ。 歌詞を忘れちまったんじゃないか、ってほ…

今までの音楽、これからの音楽 2

文学に限らず、写真、映画、建築、音楽などの文芸活動は、いまやその活動フィールドを欧米に移しつつある。 川端康成、黒澤明、三島由紀夫、岡本太郎、イサムノグチ、村上隆、坂本龍一、村上春樹。 数え上げればきりがないけれど、欧米文化人の審美眼に適う…

今までの音楽、これからの音楽

このブログ小説&エッセイを始めて、一年と半年が経ち、そろそろ親しい人間に読んで感想をもらおうと 何人かの仲のよい友人にアドレスを教えた。一月まえのことだ。 一週間と経たないうちにさまざまな反応が返ってきた。 ボクの友人は写真家や映画監督、ミュ…

7月27日

もう幾つ寝ると8月、夏です。 梅雨があがりそうであがらない一両日、苦しかったですね。 暑いんだから、せめて晴れろ、と。 毎年毎年そーですが、この梅雨明け前後ってのは、本当にヤキモキしますよ。 洗濯物が腐ったような臭いを発する時と、ガン晴れでパリ…

★89

「中村さん」「ナカちゃん」「やっちゃん」「泰樹」「やっち」 誰しもそうだと思うけれど、オレにも上にあげたように幾つかの呼び名がある。 「中村さん」は他人行儀だけど、嫌いじゃないサウンド。 「ナカちゃん」は都会っぽいサウンド。中村という平凡な苗…

☆42101-3

オレと女の宴会はまだまだ続き、宴もたけなわ。 「わりぃ、待った」とゴツいパンクな格好をした、男が現れる。突然、後ろから。 オレはこの男をよく知っているが、実は何も知らない。相通じていることだけは確からしく、この男がとにかくオレに対しては絶対…

☆42101-2

「ちょっとここで待っててよ」友人はそう言うと階上へ消える。 ひとり残されたオレは薄暗い建物の中でもじもじしていた。 「あの~・・・」声を掛けられて後ろを振り返ると、ダッフルコートを頭まで被った女と、印象の薄い感じのそのツレの女がオレの顔を覗…

☆42101-1

オレは上海を友人と二人で歩いている。やたらと広い道幅で、ここは何路だろう、なんて思いながらも、迷子の子猫ちゃん的、寂しさはない。 しばらく歩くと前から泥酔した白人が3,4人現われて、理解できない言語で何かを言うとオレ達を指差して笑い声を上げた…

芥川賞だ。

物心ついた時からずいぶんいろいろと眺めてきたけれど、 やっぱり芥川賞って不思議ですね。 『介護なんちゃら』が受賞したと思えば『沖で・・・』が得る(古い話です)。 審査員に石原慎太郎氏がいるのが賞の基準の唯一の救いですが・・・。 ポップにいくか…

機能的なもの

例えば雨の日の傘みたいな、そんな機能的な文章を書こうと日々努めている。 例えばどんな文章が―――雨の日の傘のように―――機能的なのだろうか。 落ち込んでいる人を励ます文章や、勇み足の人をたしなめるような、そんな文章が 機能的なのだろうか。 ボクは違…

★4130

「支配人、ちょっとお耳に入れたいことが・・・」 仲居の一人、鴨安のり子がもじもじしている、昼時。オレは宿のここ5年の収支表を睨んでいるところだった。「うん、鴨安さん、どうしました?」帳簿から目を上げて鴨安を見ると三白眼はこれでもかというほど…

★987

オレが採用したのは『生き残りゲーム方式』のリストラだった。 毎週一回、その週のbest man/womanとworst man/womanを決めさせた。 選出後にベストに選ばれた人間とワーストに選ばれた人間で議論をさせ、新しいマニュアルをどんどんと作っていった。 ベスト…

☆875

「いらっしゃいませ!ようこそホテルタータンチェックへ」滑舌よくオレは客をもてなす。 カウチの何たるか、そしてカウチの救済について論じると共に、エイミーとの色事をつまびらかに語ることがえぶりでー★さんでーのミッションと先に書いたが、オレの本業…

☆715

「いないのか?」オレは鉄製の扉の前で、言った。けっこう、大きな声で。 返事はなく、もう一度インターホンを押して、ドアを二度たたいて見る。結果は同じだ。 ポケットから先日エイミーがくれた合鍵を取り出し、鍵穴に指す。上下を何度か入れ替えると、ズ…

7月15日

無職になってから3ヶ月が経過しようとしている。 まったく難儀なことである。 言い換えると、私はもうすぐ働かなくては、おまんまが食えなくなってしまう状態になる。 ああ、難儀。ということだ。難儀。 今更ながらに自問自答してしまうが、働く、とはいった…

☆789

『ホテル タータン・チェック』は、部屋数16部屋の中規模ホテルで、20人からなる古参の従業員が働いていた。 「ナカちゃん、1月にさ、でっかい資本入れて全面改装するから。それまでに人員削減と経営方針なんかの叩き台を作っておいてよ」ナカちゃんとはオレ…

黄金時代の小唄

いつもエンジェルぶったある声が ――おれのことを、―― 手厳しくお説教。 いちいち小うるさい あれやこれやの詰問も、 つまる所はpissed + fuss = pee。 楽しすぎる、らくすぎる おお、この感じで行きましょう、 お前んチ、93ぼうぼう! すると、あの声も歌い…

★96

この話はカウチポテツの何たるかを語るともに、どうしてあんな素晴らしい女、エイミーと俺が別れるはめになったのかを検証したい。 最初に断っておくと、俺は決して悲観主義者ではない。 むしろたいていのカウチポテツは(多少の)悲観的傾向がある、根っか…