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「ふーん」エミリーがため息とも感嘆ともつかない声を出すと、オレは一口ビールをあおった。
「そういうわけで、オレの経営再建のミッションは終わった」げっぷ交じりに言うとエミリーは自分のブラッディーマリーをストローでかき混ぜながら、口はしで笑った。「終わった?」
「・・・ああ、終わった」

その年の終わり、ホテル「タータン・チェック」は有紀の買値の二倍で森ビルに買われた。オレは3000万の退職金と2000万の報奨金をもらい、通帳の預金に過去最高の数字を記録した。

オレはその金で沖縄の東南にある島を一つ買って、犬と猫を飼って自給自足の生活を始めた。そして禁煙の戒めを解くと、ヘビースモーカーに、あえて、なった。

エミリーは3年後に島を離れて、本土のアメリカ人投資家と結婚して2児をもうけた。
板長はホテルを辞した後、静岡県函南セブンイレブンを襲い、現在府中の刑務所に収監されている。
有紀は大成功から2年後、すべての財産をユニセフに送ると、カラーコーディネーターの仕事を始め、また世間を騒がせている。今でも、カウチの話などをして盛り上がったりしている。
女将は南伊豆に娘と喫茶店を開き、ところてんをつかったパフェやパスタなどを開発し、楽天ショッピングモールで成功者となり、今は全国を公演で回っている。宗教をつくったといううわさも聞こえる。

そしてオレは・・・。

オレは相変わらず、寝椅子に寝そべりブルガリアヨーグルトを食べながらNBAの開幕戦やマイケル・ジョーダンの在りし日のスーパーダンクを見て、感嘆を漏らしている、犬猫に囲まれながら。