女将が言っていたように「いい板前に当たるのは宝くじに当たるようなもの」のようだった。林君を辞めさせた後にも何人もの板前が来たが、どれも使い物にならなかった。
たいていは口だけの能無しか、腕はいいのだが、休み勝ちだったり、反抗的なはねっかえりばかりで、とてもじゃなけれど夏場の満館を乗り切れそうな人材はいなかった。
オレは新しいホテル経営を目指してここへ来たことを思い出し、いったい人々が伊豆にどんなことを期待しているのか、それを想像しなおしてみた。
日本人にとって旅行とはなんなのか?
そして、オレにとって、旅行とはなんなのか?を。