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「支配人、ちょっとお耳に入れたいことが・・・」

仲居の一人、鴨安のり子がもじもじしている、昼時。オレは宿のここ5年の収支表を睨んでいるところだった。「うん、鴨安さん、どうしました?」帳簿から目を上げて鴨安を見ると三白眼はこれでもかというほど見開かれていて、一瞬度肝抜かれる。

一番目の垂れ込みは料理長に関するものだった。「料理長、仕入れてきたマグロを業者に安く買わせているんです」

「まるで“スーパーの女”ですね。映画、見ました?」鴨安は頭を横に二度振ると、卑しい目つきをした。

さっそく従業員全員を呼びその前で料理長をこき下ろす。「あなたのやっていることは犯罪ですよ」

いったい誰がちくりやがったんだ、おう!と息巻く。料理長。
オレは沈黙を守り、ジッと両目を料理長の充血した目に注ぐ。何も言わないで、ひたすら。周りに集まった仲居や女将の厳しい視線に曝されている、料理長。

ついに焦れたのか、料理長は「こんな旅館、こっちから辞めてやるよ、ああ、そうさせてもらうよ、失敬」と乱暴に両肩を振るいながら歩いてきた。仲居の2,3人にボコボコとぶつかりながら非常口に向かう。

オレは有紀に電話をしてことと次第を告げた。