・・・で捕まえて

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水井近子は、最終的には、布原銀行の頭取に納まった。 水井の父は地方銀行の課長どまりではあったが、子供3人を私立幼稚園に入れ、市街地ではあるが3階建ての2世帯住宅を建造し妻の両親を引き取るなど大した甲斐性の持ち主だった。それにも関わらず、水井は…

1-8

右手の人差し指を口の前にあて、左手をゆっくりと老婆の額あてる。こうするとさらに良く心の声が聞こえることに布原は気が付いていた。 「お孫さんかな、そう」意味深に語り、言葉を少なくする。 目に涙を浮かべて老婆は言った。「布原さん、いや、布原様、…

1-7

布原は時子と結ばれると、大学進学をあっさりあきらめた。 「なんかね、どーでもよくなってしまったんだわ。というのもね、大学ってのはさ、特定の会社に入るための資格センターみたいなもんじゃない?頭の良しあしでまず篩って、偏差値の高い人は上場企業、…

1-6

「あなたはきっとできる人」 布原はお礼だといって彼女をワタミに招待した。 なけなしの金で、烏賊の一夜干、ししゃも、セロリの漬物などを注文し、飲めない酒で乾杯。二人はすぐに心打ち解け、身の上、行く末などを語っているうちに、時子の手は自然と布原…

1-5

布原はその時22歳だった。東京大学を受験するため上京して以来東京に住み着いている。東京へ出てくる数ヶ月前に亡くなった祖父が少なくない遺産を彼のために残してくれたおかげで彼はこの年までいっさいの労働を忌避することができた。それはある意味大変…

1-4

地表には音楽が溢れすぎていている。情報も多すぎる。 目の前にそびえたつペンシル型のビルにもそこかしこに広告が貼ってあり、そのどれも商品を直接売るのではなく、つまりリンゴ屋さんが広告主で、リンゴのけってくれ、と頼んだって、本当にそれがその思い…

1-3

「ええ、結論からいいますと」CIA長官はゆっくりとカンペに目を通すと、もう一度カメラの方へ向き直った。レンズの向こう側では世界がその言葉を待っていた。 「あと7年後に地球は滅びます」 その後の世界がどうなったかは想像に難くない。意外といままでど…

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その兆候をいち早く察知したのは、NASAの観測隊だった。厳密にはNASAにそんな隊は存在しておらず、「我々にはチームプレイなどという都合のいい言い訳は存在せん。 あるとすればスタンドプレイから生じるチームワークだけだ。」という荒巻課長の言葉通り、彼ら…

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「被告人、布原くん」 ええー、って思った。マジかよ、って思った。 (笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)(笑) 今から俺は、俺がぶっ殺されるまでの話をしようと思うんだけど、 それってどっかおかしい? 俺がいましゃべってるってことは、俺が…