50話

そうして小説を書くこと半年、一冊の分量の文章を書き上げ私は意気揚々、前途洋々と
鼻歌まじりに飯田橋はS社へと持ち込みを行った。もちろんノーアポでだ。
受付にいた30代前半の女性は原稿用紙の束をヒモでくくっただけの私の姿をみて
黙って指をフロアの右側にむけて、にこりと笑った。きっとこういうアホに慣れているのだろう。
ただパーテーションで区切っただけの打ち合わせルーム(Aという札が張ってあった)で、ユニクロのもの、というわけではないのだけど、とにかく仕立ての安そうなクリーム色のジャケットを羽織り、ノーネクタイでミントグリーンのシャツを着た編集者と斜向いに座って話をすることとなった。