第十話 彼女との出会い 1

 オレはヒロの部屋で珈琲を飲み、煙草を吸いながら、彼にこの話をしている。
 オレはこんな風に話す。
 店長の海野がその野暮な女をバックルームで紹介したのは、土曜日のランチ前のことだ。
 こんな野暮な女を見るのは久しぶりだ。でもその女は透き通った瞳をしていて、顔立ちの整いも上等である。その女の風体はなにもかも野暮に彩られているが、オレがとりわけよく覚えているのはその髪型だ。彼女がボクの脇を通ったときに、オレがまず目をとめたのが髪型である。それは普通の女性のトップボリュームを軽く3倍は上回るだろうか。上にボン、とサイドにボン、と自己主張している。
 オレは自分の担当するエリアに立つ、4人連れのヒルズ族、あれこれとうるさい連中だ。4人連れがもう一組、バーカウンターには男が2人と女がひとりだ。ヒルズの一人が難しい顔をして何事かをその野暮な女に注文している。オレは野暮女にたっぷりと考える時間を与える。それから彼女のところに行く。
 大丈夫かい、とオレは言う。教えられたとおりにやってくれよ。
ねえヒロ、その女って本当に野暮なんだよ。とてつもなく野暮ったいんだ。
 大丈夫、と彼女は言う。ええ。うん、大丈夫ですよ。私はできると思う。
その女ってねそういう喋りかたをするわけ。なあヒロ、ちょっとおかしいだろう?それでしょっちゅうギョロギョロって、音がするみたいに目を泳がせるわけ。
 私はまずこのオーダーをポスに打ち込んでしまうと思います。それからテーブル担当にオーダーを伝え、バーランナーとして先ほど入った生ビール4本を80卓に持って行きます。時間は3分もあればいいかな、と彼女は言う。それから80卓に行くついでに24卓のデザートのファイヤーをパントリーにかけます。バーのビールの補充についてはあとで考えましょう。それで大丈夫でしょうか?では行かせてください。彼女はそう言ってポスのあるバーの端へ向かう。
 それでねヒロ、その髪の毛がボンボン弾けている様がもうとてつもないんだよ。
 オレは急いでレジに行って、サブマネージャーのユカに言う。もっと簡単な仕事に付けてやれよ、いきなりバーランナーなんて出来るわけがないだろ。
 彼女はムスッとした顔をして、インカムで指示を出す。お前さ、ユカのこと知ってるだろ?ユカは仕事をしているときはいつもそんな風なんだ。
 レジから離れると、東川がいて ――― お前に東川のこと話したっけ?ユカの前の男だよ。東川がオレにこう言うんだ、ユカよりあの頭ボンが気になるか?野暮ったい女じゃねぇか。