第十二話 そしてまた豊作へ

「こんばんは もっと星がきれいに見えたらいいのに・・・」

こんなメールを送られても、困るだろう。なんて返すのが正解なんだろう・・・?
ボクは考える。

ベッドの上で煙草を吸いながら、この間撮った映画を見直してみる。
そして次の構想を練る。

主人公はパニック障害持ちで、うつ病気味で、睡眠障害を抱えているインポ野郎。おまけにジャンキーでアル中で、土日はいつだって何かに酔っている。ほにゃららほにゃらら。

洗濯機に靴下やシャツを放り込み、スイッチを押す。
着替えて、帽子を被ると、カーテン越しに太陽が眩しい。

本屋だ。ジュネとバタイユを本屋で衝動買いする。バロウズの「ジャンキー」を手にして、やはり本棚へ戻す。ボクは気弱だ。
本を抱えて新しく出来たイタリアンレストランで「カリカリパン粉と生ハムのパスタ」を注文し、ビールも頼む。自家製パンがアぺタイザーとして出てくる。オリーブオイルを真っ白な皿に垂らし、パンを押し付ける。親指についたオイルをしゃぶる。

日曜日はいつだって、ひとり。

しかし実のところ、ボクの周りにはたくさん女性が渦巻いている。昨日の女のことは、思い出せない。たしか二人とも相当酔っていたはずだ。きっと何もなかったに違いない。
ボクは暖かさと湿り気を覚えていた。そして昨日も射精できなかったこと思い出す。「私は2回もいっちゃったわ」と彼女は言ったのだ!

そして昨晩入ったメールを読み返す、こんばんは、星が・・・・。ボクにはあなたすら見えない。ステディーは謎が多い人だ。そしてボクはそれを知りたくない。

ボクは何も知りたくない。そしてすべてを知りたい。
汚いはきれい、きれいは?きれいは?

きれいは遠くにあるもの、過ぎ去ったもの。過去。
そうだ、昔のガールフレンドからもメールを貰ったんだ。
そしてセックスフレンドからも「どうしよう・・・、逢いたくてたまらない」とメールが来る。

おとつい会社の飲み会で小林という女と会う。小林という名前の女に会うのは2度目だ。
1週間後のパーティーでまた彼女と会う約束をした。彼女と寝るのは時間の問題だ。そしてボクはまた射精できず、気まずさの中で朝を迎えるだろう。多分、いや90%の確率でその後、自慰にふける。ボクにだって快感を貪る権利があるんだ。そう言いたい。が、もちろん、言わない。家に帰って水を飲み、パソコンを立ち上げ、ズボンを下ろす。

「ブレストの乱暴者」を開く。ページの端に染みが付いている。鼻を近づけると、パルプの臭いに混じってオリーブオイルがほのかに漂う。

乾いた咽に煙草の煙を押し込める。ゆっくりと肺に溜め込み、スタンドライトに吹きかける。オレンジ色の光に照らされた煙、ゆらゆらと動いて、消えた。

洗濯物のことを思い出したのは、次の日の昼のことだった。