第四話 パニ障とその症状and TPO

ボクの場合、それは「乗り物」でトイレがないものに5分以上乗ることで発症する。正確に言うならば、5分以上乗ると分かっていて、更にそれにどうしても乗らなくてはならない、という時に発症します。

トレイがあればいいんです。だから新幹線とかは大丈夫。

そしてそれは「各駅停車でない電車」と言い換えられますね。

● 各駅停車の電車しか乗れない、それがボクだ。

パニック障害に掛かったことのない方には若干の説明がひつようだろうか?
一体パニ障ってどんな感じよ?と。

これまたボクのケースになってしまうのだけど、
まず手足が震える。そして冷や汗がわきの下からダラダラと出てくるようになると、こめかみがぶるぶると痙攣し始める。それはいつしか首から上を支配し、やがて腰に降りてくる。その間、足からの震えもつま先から、踝、脛と駆け上ります。
それは(これまた不思議なことに)こめかみから生まれた痺れとまったく同じタイミングで股間に激突するのです。

すると、鈍い尿意が走ります。びびびっと。
1秒と待たずして、血統書つきのスマートさで有名な「オレ」は“あ、オレ、トイレ行かなくちゃ”とまともに思ってしまうのです。

さあ大変、電車にトイレはついていないし、次の駅までは降りられません。

それに気が付くと、
極めて常識的な「自分」がチキンで有名な「ボク」に鷹揚に質問をする、といった趣旨のトークショーが、頭の中で始まるんですよ。

鷹揚な「自分」は陰でモジモジしてる「ボク」に「いや、お前、ほんまに今、トイレ行きたいんか?朝、クソもしっこもしたやんけ、おらぁ」と鷹揚に訊くのであります。

「あ、はい、それは確かに行きました、でも・・・」と実直真面目で素直さが売りの「ボク」は応えなくてもいいのに応えちゃうわけですよ。しかも、付けこまれるような「でも・・・」を発してしまうんですね、弱気だから。

「でも・・・、って言うってことは、何かあんねんなぁ・・・・・」
しばらくすると鷹揚な「自分」は、
あーそれ聞きたなってきたなぁ。聞かしてぇな?いやいや、ほんと、迷惑かけないから、ほんとに、と「ボク」を説得するのは、これ必然。人間の性でしょうねぇ。秘密を知りたいから。

そうしますと、説得作戦に弱い寂しいおばちゃんみたいな「ボク」は、待っていたかのように<ありもしない説明>を始めてしまうんですね。鷹揚な「自分」の鷹揚な態度に負けて、しかもわざわざ<ありもしない説明>をしてしまうんですよぉ。困り者です。

弱気な「ボク」は始めます。
「でも、でもですね。よく考えて見ますと、アナタ~、昨晩はけっこう酒をよく飲んだと言ってましたしぃ~、睡眠時間の方も、4時間前後でしたよねぇ、確かぁ??
それから、今日は木曜日で一週間の疲れが出てきた気味で、更に明後日の休みのことを考えて、悩んでるぅ~。実は、アナタ、けっこう新しいガールフレンドの処し方にお困りだったりしたんぢゃないですかぁ~むふふふふぅ。
あれがあまり良くないんじゃないですか、精神衛生上?ぬぅ~、ふふふん」
と一見、理路整然とした推論を古畑任三郎みたいな感じでデッチ上げるから、さあ大変。

ああ、やっぱうんこもしたいかも・・・。ってそこで、超常識的な「オレ」が顔を出します、久々に。
“小便がこんなしたいってことは、当然、うんこもしたいだろう。でもいまここではできないしね。いや、困った。本当に困った。でもだからといって、したくてしちゃうのは子供!”と、結局、我慢我慢って思い込もうとするんですね、「オレ」は。
やっぱり我慢の子だから・・・。
・・・・・スイマセン。いい子したがりの大場葉蔵でました。


でも、でもですよ、
あなた何分強烈な便意に堪えられます?
もうマヂチョー強力な便意に、何分堪えられます?

1分か、長くても2分でしょう?
5分待てる?それはマヂチョー強力な便意じゃないですね(断言)。

頭の中でシュミレーションが始まるんですよ。
「あと5分はこの電車は止まらない。ってことは、これがもし<チョー強力な便意>だったらやり過ごせるけど<マヂチョー・・・>の方だったら・・・ヤバイ。ヤバイよ。どーしよー<マヂチョー・・・>の方だったらぁ!!とここで不安が生まれます。

多少不安・・・・?

「おっとぉ、華麗な中国語が飛び出したァー。これはチーチンの「世界末期」で有名な一説です!・・・・・って誰も知らないか・・・・」失礼、自己顕示欲でした。。。

そう、不安になっちゃうんですよ。

それはもう、ものすごい不安なんですね。

祖父の一番大切にしていた鉢植えを壊してしまった時のような、どうしようもない絶望感。
「この世にはやってはいけないことがあるんだ・・・。」と怒られながら学ぶ時・・・。

↑ × 20,000,000,000 位ですかねぇ、その不安たるや。

その公式がどうやって導き出されるのかは置いておいて、
とにかく、まあ、その位不安に駆られるんですね。

ボクは、オレは、自分の場合は。

アナタに何ができますか?その状況で。

でも実は、何が恐ろしかったって、初めてそれが爆発したのが、あそこだったってことです。