第九話 LOVE without SEX

ボクは彼女と、文字通り、運命的に出逢った。
25歳のことだった。

ちょうどその年六本木ヒルズが出来て、東京は一時的に活況に沸いているように見えた。吐く息がうっすら白い、3月初旬。ボクはあたかもその習性からネオン近づいていってしまう蛾のように、異彩を放っていた東京の街に引き寄せられた。

根が田舎者なのだ、と言われればその通りなのかもしれない。
ある日ボクは「東京ぉ!」と叫ぶと、その時までやっていた雪掻き的仕事を辞め、アパートを2日で決め、弟がそれこそ血の滲む思いで親を説得し購入してもらったオデッセイを強引に売払い、それを頭金にして新宿で弟と生活を始めた。

何がボクを東京に引っ張ってきたのか。それは今の時点でもまだわからない。ひょっとしたらそれこそ幻想なのかもしれない。何かに引きずられてきた、そんな言い方でしか自分を説得できない弱い自分が時として嫌にもなるが、しかし確実に言えることが一つある。

ボクはこの不毛の東京砂漠で、神の恵みにも似た吉野桜子の愛を享受したことだ。真実の愛 LOVE without SEX。

そしてその愛の不在が、今ボクに信じられないような負荷をかけている。