第三十章

こっそりと“the 25 strange stories”を病室に持ってきていた羊は「水口」の章を読み終えると、不思議な感慨に襲われた。ぬるりとした納豆のネバネバで身体を包まれたように、それは不快だったけれど、羊は甘んじてそこに浸った。そして本を閉じて眠った。

朝が来た。夢は見なかったようだ。

カーテンを開けると、薄闇で、時計を確認する。5時、ちょっと前。

羊はあくびを一つすると、本を枕の裏から取り出してペラペラとめくって見た。
1「生きる女」
2「クリスタル睡眠」
3「奏でる扉」
4「拡張H」
5「静けさ種」
6 「差詰モアイ
7 「概ね珈琲」
8 「夕刊セックス」
9 「みみず城」
10 「可愛らしさ もう一歩」
11 「てんてろてんとした映画」
12 「聡明さ争い」
13 「歌うネコ」
14 「敢えて上へ」
15 「カボチャポイント・月光浴」
16 「勇敢に 確実に」
17 「とめどなく 夢を」
18 「複雑に緊迫した」
19 「些か」「砂」
20     「エッチ残像 」
21 「掟: forget about it(ま~いっか)」
22     「水口」

よくもまぁ、こんなインチキをここまででっち上げたものだ。感心しながら、羊は呆れた。朝の病室で笑い転げた。

そんなバカな。一体この間、ボクは何を得たっていうんだ?ええ?

明らかに手抜きのものも多し、稚拙で、誤字脱字ばかりで、役に立たないくずじゃないか?

せめて、真実を述べているとしたら、最初の何枚かだけだ。誠実さが足りない。

それは愛ゆえに、といえば、納得がいくかもしれないが、それにしたって、誠実さが足りないよ、この話には。

誠実さが足りない。いや、エンターテインしていない。する必要もないのだが。

エンターテインしていないんて・・。信じられない。