第十一話 pocco a pocco

ハイケイ お元気ですか?

ボクは至って元気です。
なんというか、最近歳を取ったなって感じることが多々ありますけど。
でも元気です。

そちらは幸せにやっていますか?
君が結婚したと聞いて、正直とても驚きました。でも人から聞かされなくて良かったと思っています。
あの日、あなたからメールが入った時に、嫌な予感がしたんですよ。

そしてそれは、大当たりの大凶でした。

いえいえ、未練とかそういうのではないのです。
ただ、なんか、ひどく驚いてしまって。うん、でも、あの時言った祝辞は本当ですよ。
ボクはあなたの幸せを心から願っています。

ただ、こう思うんです。
いったいどこからどこまでがボクらの恋愛だったのか、と。

間に憎しみを挟みすぎたこともそうですが、ボクはいったいいつからいつまであなたを愛していたのか、わからないのです。

思い出は常に自分の都合よく書き換えられてしまうものですが、あなたと過ごした楽しい日々はその後の辛い日々と好対照な存在としてボクの中にしっかりと残っています。だからあなたとのことはいつまでも中立に見ることができるのです。自分に嘘をつく必要がない。

そんな客観の入り込む余地があったからこそ、ボクらは別れられた訳だし、泥試合をこれ以上続ける必要はなかったと言われれば、それまですが。

でもやはりこう思うのです。愛とはいまボクらが抱えているようなものじゃないのか、と。

ボクたちの愛は、形こそそれ風に見えないけれど、やっぱりしっかりした愛なのではないかと思う。

だからそういう意味でボクはあなたを、今でも愛しています。


しかし、いったいボクたちの4年間はなんだったんでしょうね。
こんなに深く愛している人と離れなくてはならないなんて、本当に理不尽だと思います。なんで結婚なんてもんしたんだ、と叱りたい気持ちもありますが、あなたが本当に求めていたのは、家庭ですものね。

だからあなたはやはり正しいことをしたのだと思います。

ボクはそれがわからなかった。あなたの本当に欲していたものがあの当時、わからなかった。

つまらないことをしゃべりすぎました。

幸せになってください。

ボクのことは忘れてください。

自分の幸せに集中してください。
でもpocco a pocco(ゆっくりね)!

さようなら。