羊の町の地図 「拡張H」

帝国書院発刊の「新詳高等社会科地図」十五訂版を見ていただくと、巻末に都市の構成分布図が載っている。資料によれば、羊の住む町は「拡張H」型に分類され、それは東南アジアの人口500人以上1000人以下の村によく見られる形態のようだ。

「拡張H」型とは -I-I- という形で2つの「I」の部分に当たる所がメインストリートになって発達している、都市形態をいう。卑近なところで吉祥寺がそれにあたる。もっとも羊が住んでいる町が吉祥寺と較べて誇れるところというと、井の頭公園に勝る広さを持った野山が傍にあることだけなのだが。

大抵のものは手に入る。しかし羊がパソコンを買おうと思い立ち、不当とも言えるほどの苦労をしたことから、大抵の器の大きさは推して知るべしである。
町には工業高校と商業高校があり、中学が1つと小学校が4つ、保育園と幼稚園が1つずつあった。つまりこの町で生きていくにあたっては、隣人は殆ど知人の何かなのである。
羊が特に好んだものが友人の妹の同級生の家が作っている豆腐であるということを、羊の隣人の娘の彼氏の弟が聞いて馬鹿みたいに笑っていたことを、羊は知っていた。それほど狭い町なのだ。

マクドナルドはCMでしか見たことはないし、セコムしている家は一件もない。

そんな町だ。