the eighth story ~夕刊セックス~

「夕刊セックス」

轟青年が真に青年に目覚めたのは13歳の秋だった。
塾の帰り道、どぶの中に落ちているエロ本の束を拾った時、彼の中で確かに何かが変わった。それは、静かだが確実に轟青年の中に巣食い始めた。そして文字通り、彼の魂にしゃぶりついた。そして今もまだ飽くことを知らずに彼の魂にしがみつき、離す事を了承しない。もし彼があの日、エロ本をどぶの下で発見する方法でなく、別のもっとロマンティックな方法で性に目覚めたのであれば、今の彼のような性欲は持たなかったかもしれない。そうだ、例えば友人AくんにこっそりAの兄のエロ本なり、ビニ本なりを借りるような、そんなロマンティックな方法で性に目覚めていれば、あるいは轟は「夕刊セックス」になんて嵌ることはなかっただろう。

現在、25歳の轟はもう青年ではない。月に一度、女を買う。
「夕刊セックス」は非常に込み入った事情で、売春婦以外では到底了承しかねる内容だからである。轟は、毎回それを行う交渉にかなりの時間を必要とする。熟練の売春婦ですら、轟が「夕刊セックス」の説明をすると、驚きを露にした。
その奇行ともいえる性癖を除けば、彼はむしろ大変実直な部類の人間で人好きする性格なのだが、当人は「夕刊セックス」を月に一度しないことには、微塵も生きた心地がしない。というか、月に一度の「夕刊セックス」によって“一ヶ月生きることを可能にする何か”を得て、それを食いつぶしながら生きている、といった印象を受けるといった方が解りやすいだろうか?もし彼に「夕刊セックス」を絶たねばならぬような事態が生じたとしたら、それは即彼の死を意味するだろう。

肝心の「夕刊セックス」とは



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