第二十六章

ノラ犬は去り、羊は失禁し、暗闇はよく目を凝らしてみると灰色になっていた。
羊は地面に仰向けに寝転がり、空(?)を眺めていた。

ふと、空が微かだが動いていることを羊は発見する。空が動いている。

空は、時に縦に、時に横に、時に斜めに、動いていた。

羊は立ち上がり、目元を擦ってみた。手の甲に目やにがついていた。羊は、恐る恐る目やにを指で掬って、口の中に突っ込んでみた。

しょっぱい。
塩っ辛い。
味覚は生きているのだ。このことは羊に渇望を齎した。
瞳も生きている。僕の身体は生きている!!!僕は生きたい!まだどこかへ進みたい。僕は感じたい。色々なものを感じたり、慈しんだり、コケにしたり、踏み潰したり、いとおしんだり、したいんだ。グレーなものを白と黒に分けたい、分け難いものを、僕の尺度で分けてみたい。

それが生きるってことなんだ。僕は僕の右手を暗闇から捜し出して、僕の右手の存在を知った。知覚した。知覚した僕が僕なんだ。右手はそこにあったのではない、僕がそこに右手を置いたのだ。そしてそれを僕は覚えていた。そしてそして・・・・。

突如、暗闇に一筋の光があるのが見えた。暗闇はその光で二つに分かれていた。

それに気が付いた羊は走った。駆けた。

光がだんだんと近づいたのか、羊がそこへ近づいたのか、わからない。
ただ光は初めに見えたよりも、大きく、太く、激しく輝いていた。
やっと羊は光のふもとへ立ち、瞳が砕け散りそうな程痛んだが、その光を直視した。

光は、羊の身体を優しく包む。しかし皮膚は痛んだ。確実に痛みを与えた。羊はその痛みに堪えながらも、光を見つめる。光が視界を白くし、瞬きをした瞬間。