10話

2005年11月18日
俺たち、というのは緑の家にすむメンバー全員は、下北沢にいた。

下北沢というのは緑の家があった練馬区からみれば、極地、彼岸、最の果て。しかしカラー的には、完全に同系ということになるので、会場につく頃には町のあちこちにいるアングラ野郎たちと寸分たがわぬ世田谷面だった。
ミュージシャンや俳優を夢見て上京した若者たちの魂の遺骨が、竜巻となって空へと舞い上っている。多くの人々の夢を実現し、そして、その倍以上の数を踏みにじった街で、俺たちはイベントを開くことにしたのだ。

なんともお誂え向きじゃないか。
とうに夢に破れているのに、妄想とグリーンラベルの力を借りて、夢の端を引き延ばしている集団が、夢の砂漠でお祭りわっしょい。

緑の家に縁のあるものたちが集い、あるものは音楽を奏で、あるものは即興で絵を描いた。そして俺は映画を撮ることになった。
緑の家に住み始めた頃に、悪戯で撮った作品をみた春ちゃんが指名してきたのだ。

俺は三日三晩考えて、銭湯で着想を得た。筋書きは、ある男が死んでしまった友人からの電話を電話ボックスで待つというもの。
こうして文字に起こしてみるとずいぶんばかげた話であるし、だいたい金もないのにSFってどうよ?
だが、そのときはすばらしいアイディアであるように思えたのだから、人間の脳みそとはハッピー印にできているものだ。企業というものが創業して設立1年で60%が倒産・廃業するというのも頷ける話である。

このイベントにしんさんの彼女は来ていなかった。と記憶している。タイからはとっくに帰ってきていたはずだったが、長谷川が俺に伝えたとおりのことが起こったのだろう。そしてきっと彼女はしんさんの元を去ったのだ。

さて、しんさんは、何も創作しない代わりに、会場の屋上で例によってグリーンラベルを飲んで大騒ぎし、警察が出動する事態を生成した。
警察は二回きた。一度はしんさんによって、もう一度は大ちゃんとタケチのいさかいによって。後者は大ちゃんが夢中になっていた女にタケチがあやをかけたとかいうどうでもよい話だったが、屋上で横になっていた二人をみた大ちゃんがタケチの頭を蹴り上げたというから、恐れ入る。向こう見ずも甚だしい。漫画じゃないんだからさ。

そういうわけで会場を貸してくれた店長と懇意だった春ちゃんは面目を失い、予定していたよりも2時間ほど早く全員が会場を追い出され、イベントは閉幕となった。逮捕者を出さなかったことが嘘のようだった。