4話

たしか、しんさんが俺が住んでいた「緑の家」にやってきたのは夏の終わりごろだった。

たしか、ひどく暑かった日の夕方で、夕立が去ったあとに、管理人の長谷川が軽トラで帰ってくるのが、眼下に見えた。助手席から降りてきたのがしんさんだった。丸刈りで、ランニングに短パン。背はそれほど高くはなかったが、顔立ちは日本人離れしていた。どちらかというと、中東系の顔立ちだった。

「あら、やっち。新しい人」長谷川は手を振る俺を見つけるとつまらなそうにしんさんを指差した。
「やっちっていうの?俺、しんすけ。よろしく」そういってウィンクするとこぶしを突き出した。俺もそれに答えて、たしか、こぶしを突き出した。ちょっと、だせーなと思いながらも。

普段ごみが積んであるトラックの荷台にしんさんの荷物が載っていた。一人用の皮ソファーとスピーカーとノートパソコン。それからダンボールが数個。クリアケースが数個。春ちゃんやだいちゃんが引越しを手伝っているのを、俺は二階の部屋から眺めていた。重たい荷物を持つのは嫌だったから。