1話

「何の感情も無いとは言え、正直なところ、あの人に似た人を街で見かけると怖くなったり、駅の浮浪者の中混ざってるんじゃないかと無意識に探してしまったり、知らず知らず彼の存在に怯えてしまってたのですよね。 だからこそHさんにこの話を聞いたときハッキリさせたいと思ってしまったんです。

だけど、確かにあなたの言うとおりです。 生きてても、死んでても、もう過去の人なのだから、私の生きる世界においては存在しないのと同じことなのですよね。 なんだか少しスッキリしました。 ありがとうです。 ちなみに今東京に帰省中で、長い夏休みを満喫中です。(まだ向こうで働いてないので)」

これは僕がしんさんと呼んでいた男の元ガールフレンドから頂いたメールの一部だ。彼女は今は結婚してF県に住んでいる。旦那さんは中堅の車ディーラーで働いており、愛車はBMWだという。

しんさんと彼女は代々木公園で毎年開かれているイベントで知り合ったと記憶している。何しろ10年以上前の話なので記憶が少し曖昧だけど、とにかく二人は知り合った。彼女はまだ大学生で、しんさんは35歳か36歳くらいだった。二人はビール飲み、一緒に踊り、そして意気投合してしんさんと僕らが住むアパートにやってきた。

僕らが住むアパート?
そう、当時僕としんさんは同じアパートで暮らしていた。
いわゆるゲストハウスと呼ばれているやつだ。

ただ、ゴールデンタイムで放送されるシェアハウスみたいな方じゃなくて、21時以降に社会問題としてニュースで取り上げられる労働者のたこ部屋、不良外人の掃き溜め、非正規雇用日本人の吹きだまりの方だ。