2話

僕らは全く自由に不自由を謳歌していた。
いや、ことによると全く不自由な自由を謳歌していたのかもしれない。
それはわからない。

ここに住む誰もが非正規雇用の労働者で、介護をしたり、清掃したり、ウェブショップでガラクタにキャッチコピーをつけて売ったりしていた。
時給900円程度のそれら労働では外で飲む金など作れるはずもなく、大抵はそのゲストハウスという名の崩壊寸前の木造アパートに逼塞し、誰かが貰ってくる睡眠薬発泡酒合成酒で割って、二日酔いみたいなトリップすることで日々をやり過ごしていた。貯金もなければ年金も払っていなかった。18歳や19歳ではなく、27、8歳の働き盛りのものたちがである。youtubeで音楽を聴き、図書館から借りた本を片手に結論のない非生産的な議論を繰り返すことで現実から目を背けて生きていた。
誰かの部屋に酒があるときけば行って分け前に預かり、誰かの部屋に女がきているときけばひとまず何はさておき行って口説き、誰かの部屋でケンカがあるときけば行って面白そうだから殴り合えといい、誰かが泣いているときけば朝まででもつきあって一緒に泣いた。
我が青春の何もなくてすべてがあったあの日々。

しんさん。

しんさん。

しんさん。

いま、振り返ってみれば悪い夢だったとしか思えない生活だが、あそこに住む誰もが希望を捨ててはいなかったのは本当に不思議なことだ。世界には色々な結論があると思っていた。信じていたのだ。