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林、という25歳の男から電話があったのは、そんな風にして、居酒屋のオヤジに一杯奢ってもらい、女と別れてから、三日後のことだった。

非通知で掛かってきたのだけど、俺はそんなこと気にせずいつものように「お電話ありがとうございます。ブルーパロットでございます」と陽気に電話をとった。

「中村泰樹様ですか?」
「ブルーパロットでございます・・・」

男はあらかじめ、この答えを予想していたのだろう。
「用件だけ手短に話させていただきますね。ワタクシ、林と申しまして、としは25歳です」
「ああ、そうなんですか」と思わず年齢に反応してしまったが、林は俺の答えを無視して続けた。

「実はですね、ワタクシの上司で、中村様のご友人でらっしゃいます、有紀様がですね、ええ、そうです、それでですね、先だって御投資していただいたお金がですね、天文学的倍率で増えまして」

まかぬ種は生えぬもので、有紀はどうやらあの100万円を本当に増やしたらしかった。
「いったい幾らくらいになったんですか?」
「ちょっとお電話では申し上げにくいのですが、軽く兆を越えまして」
「ほーう。それで有紀は?」

烏賊音頭を踊っている有紀に出会ったのは、その数日後、六本木ヒルズにある宮廷料理の店でのことだった。

俺も負けじと踊ったが、ヤツの腰さばきには遠く及ばなかった。
「お前を祝わなくっちゃな」シャンパングラスを有紀の頭の上でひっくり返した。
有紀も負けじと瓶だしの高級紹興酒のデキャンタを林の頭に振りかけた。「なんでっスか?」
「お前のビジネス」
「俺はただ挑戦しただけっス」
「お前は今、烏賊音頭を踊ってる。お前は成功したんだ」

そんな風にして夜は更けて、俺はヒルズレジデンスの有紀の部屋で一晩、明かすこととなった。

引っ越し祝いだと言って、有名なデザイナーや芸能人などが何度か邪魔したが、俺はかまわず寝椅子に寝そべり、プレーンヨーグルトを食べた。

カウチポテツは経済活動を憎まなければならない。「ビフィズス菌がお前を見てるぜ」俺は、鋭く有紀を睨むとテレビに視線を戻した。