工場員閑居して不善をなす

工場員は暇である。
暇な工場員ほど暇なものもあるまい。
なぜといって、何も流れてこないラインの前に立っていても何も起こらないからである。
物を作ってこその工場で、何も作っていない工場というのはもはや工場ですらない。
それはただの建物であり、そうなると工場員はただの建物員ということになる。

ただの建物員、それが俺だ。

襲い掛かってくる絶望のためか、寝つきが悪くなり、酒に手を出した。
酒量は天井知らずに増えていき、朝起きるのがつらくなった。
肝臓を悪くしているのかと心配になり、酒を飲むのを止しても症状はやまなかった。
あきらめて心療内科の扉を叩くと角刈り白髪の無表情な医者が言う。
「これは典型的な鬱病ですね」
まるで「今日はよいお天気ですね」というような口調だった。
酒の代わりに今度は薬を大量に飲むようになる。
薬は効いた。飲んで部屋を暗くして20分もすると朝までぐっすりといった具合だった。
しかし朝の辛さはあまり軽減されなかった。
「じゃあお薬の量増やしましょうか」医者は目を見ずに言う。
まるで「オベントあたためでヨロシですか」というような口調だった。

脳みそにつながっている線を何本か抜いたのではないか。
頭は常にぼんやりしているし、性欲すらもうまく働かなくなっていき、俺は日課だった猿行為をやめた。

そうして3年が経った。

今は毎晩寝る前に薬を3種類飲んでいる。1日でも飲み忘れると離脱症状で手足がしびれ、外出もままならない。
あ~あ、なんてこった。
俺は工場員を辞めるどころか、、、


工場員は過去を振り返ったのだった。