第十一話

松原が狭い玄関をくぐると、管理人の長谷川は震えだした。私はそれを目の前で見ていたから知っている。
「もうだめよ~。地球が・・・地球が壊れる・・・」
「何やっとんねん」松原は長谷川の胸倉をつかむと、次の瞬間ゆっくりと抱きしめた。「何やっとんねん」

私はしばらく涙が流れるままにしておいた。物事は適当というところ、ほどほどというところが大切なのにも関わらず二人はあまりに美しすぎた。

我々はすべからく時の流れの洗礼を受けていることを認めなくてはならなかった。30歳の頃の松原とは別人の顔だったし、長谷川に至っては額が著しく広がっていた。
「ぜったいあんたは禿げないと思ってたんだけどな」
「うるさいわね~。あんただって人のこと言えないでしょ?」
「俺はまだ、ほら大丈夫だよ」私は前髪を掻き分けて生え際を見せた。しっかり後退していた。

はじめてあったときから痩せ続けていた松原はまだ痩せ続けていた。きっと危ない薬物に手を出しているに違いない、長谷川は松原がトイレに行っている時に私にそう言った。私は同意した。