a Chinese

黄は在日6年目の日本に帰化した中国人だ。出身は上海である。
「昨日さ、自殺しようとしたときのこと、思い出したよ」
私は黄の言葉を聞いて、わかったという風に頷く。左隣に料理長がいるのだ。無駄話をしていると分かったら、料理長は私を怒鳴りつけるだろう。

私は在中国歴のある広東料理人で、点心の中でもデザートを担当している。ちなみに黄は叉焼などの焼き物を担当している。私たちは六本木の飲茶レストランで知り合い、付き合いは4年を数える。私と黄は中国語を介することと、ほぼ同年代であることからすぐに打ち解け、酒を飲むようになった。

黄の深い話は今に始まったことではない。内容が面白くてつい料理する手が止まってしまい、再三注意を受けていたから私は気をつけていた。がしかし、枕詞の巧みさに私の戒めはいつも簡単に解けてしまうのだった。
内容はと言えば、日本語に訳せば即刻鶴首になるだろう話のオンパレードで、麻薬の運び屋として日本に入国したこと、黒社会(マフィア)に属していた当時の数々の悪行など、会社にとってはリスク以外何者でないチンピラの冒険譚だ。黄の素性を知ったとき、私はマンゴープリンを型に流し込んでいるところで、危うく作った半分を流しにこぼしてしまうところだった。

それは黄がはじめて人を殺めたときの話で、こんな風に始まった。